恐怖の泉

怖い昔話「大きくなった鼻」

時は昔。
とある大名の若い娘は、常日頃から自分の鼻が大きいのではないかと気にしていた。

この鼻が小さければなぁ。
この大きい鼻のせいで、私は殿方にも恵まれず、他人からは嘲笑われ馬鹿にされる。
この鼻さえ小さければ、私だって良い人生を送れたはずなのに。

娘が自分の大きな鼻を気にしない日は無く、鏡を見る度に憂鬱な気持ちにさせられていた。

ある日、娘が無意識に癖で自分の鼻を触っていると、いつもより明らかに大きくなっている!
大きさにして、握り拳くらいはあるだろうか。
えっ?なんで!!
娘は焦りから心拍が上がって血の気が引き、全身から冷や汗が吹き出す。
更に鼻はどんどん大きくなり、ついには顔を覆い隠す程にまで肥大してしまった。

それから娘は毎日、頭から布団をかぶったまま狂ったように泣き叫び、泣き疲れては寝るを繰り返して部屋から出てこない。
遂には飲食も断ち、心配した両親は慌てて評判の名医を呼び寄せた。

名医は娘を見ると言った。
「姫君は運が良かった。丁度鼻を小さくする薬が入ったので、これを飲めばたちまち良くなるだろう。」
医者の言う通り、薬を飲んでから数日で娘の鼻は小さくなり、回復した。

医者の見立てでは、娘は自分の鼻の大きさを気にするあまり幻覚を見たのだった。
薬もごく一般的なもので、鼻を小さくする効能など無いし、そんな薬は存在しない。
娘を一目見た時から鼻に異常が無いと分かった医者は、心を落ち着かせようと努めたのだ。
娘が自分の顔を鏡で確認していれば医者いらずだったが、それが出来ない程に娘の心は錯乱していた。

人の心が、時に有りもしない物をさも有るかのように見せる事がある。
それを身をもって理解した娘は、鼻の大きさを気にしないようにはなったが、稀に自分の鼻が大きくなる悪夢を見る時があったのだそうだ。

スポンサーリンク

TOP