恐怖の泉

実話系・怖い話「136からの電話」

これはずいぶん前に、私の弟の身に起こった出来事です。

私と弟は歳が近く、実家では1つの部屋を共有して使っていました。
狭い部屋に男が2人、しかも年齢差があまりないものですから、仲は悪く常に喧嘩していました。
それでも兄弟ではありましたら、仲が悪いと言ってもピンチの時は絶対に助ける、という絆はお互いに持っていたのだと思います。

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弟がもう間もなく成人を迎えるという頃。
学生時代を謳歌していた弟は、その日も飲み会へ参加していたため、深夜遅くに帰宅しました。
私は眠っていましたが物音で起き、今頃帰ってきたんだな、くらいにしか思わずまた目を閉じます。

ヴーン…ヴーン…

鳴り響く音でまた目が覚めました。
音の正体はすぐに分かりました。携帯のバイブレーションです。
私のものはピクリとも反応していませんから、弟に着信がきているのでしょう。
しかし肝心の弟は、酒の力で爆睡しているのか全く出ようともしません。

「おい、電話鳴ってるぞ!うるせーから早くでろ!」

弟をたたき起こし、電話に出るよう急かします。
あぁ、と呻きながらやっと携帯を手にした弟は、画面を見るなり
「え?136?何これ。」
と声を上げました。
兄ちゃんこれ見て、と差し出された弟の携帯には、「136」から着信が来ているのを、私も確かに見たのです。

弟「こんな番号ってあるの?」
私「わからんけど…まぁとりあえずうるさいから出てみれ。」

もうずいぶん長い時間、携帯は鳴っています。
弟は携帯を耳に当てました。

「はい。え?いやオレに言われても…。はい、ちょっと待って下さい。」
そう言って弟は、何やらメモを取り始めます。
「はい、わかりました。」
電話は終わりました。

「何だったの?」
私が尋ねると、弟は
「いや、何か亡くなっている人が居る住所を教えるので、そこへ行って下さいって言うんだよ。オレ警察じゃないのに。とりあえず住所メモした。」
と答えました。
意味が分からないので、私も弟も再び寝ることにしました。

翌日、起きると弟のメモがそのまま机に置きっぱなしになっていました。
現実だったんだなと思って弟の携帯を確認しましたが、136からの着信履歴など無かったのです。

分からない事だらけでしたので、ちょっと調べてみました。
すると「136」は電話履歴を教えてくれる、固定電話の有料サービスだと判明。
ですが136から直接電話が来る事は有り得ない。あくまで136に電話をかける事で、利用出来るサービスでした。
次にメモをした住所。
インターネットの情報によると、そこは人里離れた場所にある人家のようでした。
それ以上の情報は特に出てこず、謎は深まるばかりです。

「そんな遠い場所じゃないし、オレ友達と行ってみるわ。」
弟は、気になるのか現地に向かうようです。
私は「おう」とだけ言って、これから何が起ころうとしているのか予想すらつきませんでした。

その日の夕方近くになって、弟から連絡がありました。
「兄ちゃん、ヤバい事になった。今警察にいる。」
「何?一体どうした?!」
両親はまだ仕事で帰ってこないため、私が代わりで警察署へと向かいました。
警察には弟と、友人2人が居ました。

話を聞いてみると、あのメモの住所へ向かってみると廃墟があったそうです。
何気なく中を探してみると電話の通り、本当に人の骨があったので警察へ通報。
事情聴取のため、警察へ連れていかれたが保護者的な人が来るまでは帰せない、という事で私が呼ばれたようです。

警察へありのままを話そうかとも思ったのですが
「夜中に136という番号から電話が来て、言われた住所へ行ったら人の遺体があった。」
なんて話をしても、余計に怪しまれるだけなのは明白です。
とりあえず弟達が心霊スポット巡りをしていたら偶然そうなった、という事で話を合わせます。
遺体は首吊りの形跡があり、死後かなりの年月が経っているとのことで、一応家に帰ることは出来ました。

それからというもの、弟に異変が起きました。
最初は弟の
「今、テレビになんか変なの映らなかった?」
という指摘から始まりました。
何度もそういう事が重なったので、弟とテレビを見ている時は常に録画をして不可解な所があったら見直してみる、という方法を試してみたのですが…
録画では、その現象は確認出来ませんでした。
弟が言うには
「女の人の影みたいなのがみえる」
らしいのです。

一度全てを両親に相談してみたのですが、そんな事があるはずもない、の一点張りで相手にもされません。
そのうち弟は、日常生活の場面でも「女の影が見えた」と言い始めます。

これは廃墟にいた遺体の霊の仕業だという確信だけが、私の中にありました。
そこで近所の神社でお祓いを受け、お守りを買い込んで弟の持ち物にくまなく投入。
友人達にも相談し、あらゆる手を試しました。

ところが、弟は良くなるどころか悪化していきました。
女の影に怯えて外出を拒み、鏡にうつるらしくお風呂や洗面所にも行きたがりません。
流石の両親もこれはおかしいと気付き、伝手で知った方に除霊を頼んでみることになりました。

除霊当日。
霊能力者だというおばさん3人が家に来て、早速事が始まりました。
お経をあげながら長い事やっていると、終わったようで説明を受けます。

「とりあえず除霊は終わりましたが…残念ながら失敗してしまいました。申し訳ございません。
手は尽くしたのですが、この方に憑りついている霊は何か強い念を訴えはするのですが、それが何なのか読み取れないのです。
分かり易く申しますと、会話が成り立たない状態です。
強い要望があるのは確かで、恐らくそれを達成すれば成仏するとは思うのですが…。」

除霊も通用しないと聞いて、かなりショックを受けました。
もう弟は助からないのではないか…。
悲しくて涙が出ました。

それでも私達家族が諦める訳にはいきません。
私は警察署へ向かい、発見された遺体について聞いてみる事にしました。

警察は最初、そういう事は教えられないと頑なな態度でしたが、私があまりにも食い下がるので根負けしたのでしょう。
情報をもらえました。
とは言っても、警察でも分かっていることがほとんど無く困っている状況でした。
遺体は若い女性、死後かなりの年数が経過しているためはっきりとはしないが、恐らく死因は首吊りによる窒息死。
廃墟の関係者も皆死去しているため、調べようがないそうです。

最後に残された術として、私は遺体が発見された廃墟へと向かってみました。
効果があるのかも分かりませんが、現地で直接訴えれば何とかなるのではないか、そう思ったのです。

途中で線香と花を買い、現場へ到着したら線香に火をつけて花を置いて
「頼むから成仏してくれ!」
と、何度も祈りました。

するとどこからか女の声で
「ありがとう」
と聞こえたのです。

人生でこの瞬間ほど恐怖を感じた事は、今のところありません。
声にならない声をあげながら、私はトップスピードで廃墟から逃げ帰りました。

そして驚く事に、それから弟はみるみる回復。
女の影もすっかり見えなくなったようで、今ではウザいくらいの元気を取り戻しました。

ここからは私の憶測です。
あの遺体は、ひょっとして誰かに供養をして欲しかっただけなのかもしれません。
どういう状況だったのかは分かりませんが、自殺という手段をとって成功したものの、誰にも発見されず放置されたままでは、魂が楽にならず苦しみが長いこと続いた。
そこに助けてくれる希望として、どういう訳か分かりませんが弟に白羽の矢がたった。
なぜ弟なのかは、きっと人智の及ばない領域の話なのかもしれません。

弟にも聞いてみたのですが、この件に関して全く心当たりは無いそうです。
唯一、これかもと思う出来事があるとすれば
「ゼミの研究でその廃墟がある地域へ行った事がある」
くらいしか思い浮かばない、とのことです。

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携帯電話から幽霊の手が伸びて、弟の顔を掴もうとしている挿絵

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