恐怖の泉

実話系・怖い話「宿っていた少女」

私は友人の依頼で、空き地の樹木の伐採をした時がありました。
友人の話では、近々大きな工場が建つため、駐車場を作るのだと言います。
私は樹木伐採業を個人で営んでいましたから、気をきかせた友人が仕事を回してくれたのです。

その友人は高校の頃からの付き合いで、この辺りで地主をしている家柄でした。
家業を継いで、今では家賃の入金確認や物件管理の手伝いをしているようです。

伐採を頼まれて現場作業をした時はまだ5月でしたが、異様に暑くて真夏のような炎天下だったことを覚えています。
流れ出る汗をタオルで拭きながら伐採をしていると、目の端に一瞬、少女のような姿が見えた気がしました。
ですが周囲を確認しても、誰一人姿は見えません。
「暑さのせいで頭をやられたかな。」
なんて思いながらも、私は作業を続けます。

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大きな樹木でしたので伐採には数日かかりましたが、予定通りに完了出来た後、私は友人と居酒屋で飲んでから一人暮らしのアパートに帰宅しました。
体の疲れもあったのか、明かりを点けたままベッドで横になってくつろいでいると、いつの間にか寝てしまっていたようです。
ふと夜中に目を覚まして、水を飲もうとキッチンの方へ向かった時でした。

部屋の照明が急に明滅し、異様な寒気に襲われました。
そして部屋の隅に、突然少女の姿が現れたのです。

見た目は小学生くらいでしょうか。
俯いていて顔は見えませんが、あまりの驚きで私は何も反応する事が出来ません。

「どうして切ったの?」
そう少女は言いました。
「え?」
私は何の事か分からず、聞き返すのが精いっぱいです。
「どうして木を切ったの?」
その言葉を聞いて、私は伐採の時に一瞬だけ見た気がした、少女の事を思い出しました。

夢かとも思ったのですが、私の意識ははっきりとしていて現実感もあり、冷や汗が全身から溢れ出てきます。
(私は何か、やってはいけない事をしたのか。)
あれこれ考えるものの、どうすれば良いのか分かりません。
「俺は、友達に頼まれて、ただ切っただけなんだ…。」
恐る恐るそう答えると、少女は
「わかった。」
と言って、パッと姿を消しました。

一体何だったのか…。
とりあえず水を飲んで気持ちを落ち着かせ、布団に潜り込みますが眠る事が出来ません。
それでも次第にウトウトし始めた明け方頃、突然電話が鳴りました。
それは私に木の伐採を頼んだ友人からでした。

「今からそっちに行くから、家で待っていてくれ。」
友人の普段とは違う様子に、私は先程自分の身に起きた出来事と関係があるのだと直感しました。
居ても立っても居られず、私はアパートの前で暇を潰して待ちます。

しばらくすると友人はその親父さんと一緒に、自動車で私のアパート前に到着しました。運転は親父さんがしていて、友人の方は後部座席に真っ青な顔をして座っていました。
私が車へ乗り込むと車はどこかへ出発し、移動中に友人から何があったのか聞き出します。

友人の話によると、ふと目覚めると枕元に見知らぬ少女が立っていたのだそうです。
「あなたが木を切ったの?どうして切ったの?」
少女の顔は影になって見えなかったそうですが、口調からただならぬ気配が伝わってきます。
跳ね起きて父親の部屋へ逃げ込み、出来事を話すとすぐに何かを察した親父さんは、部屋にあったお札を持ち私の家へ向かったのだそうです。
これからどうするのか親父さんに尋ねると、神社で神主さんを乗っけて、木を切った場所でお祓いをしてもらうと答えました。

道中で神主さんを車に乗せて話を聞いてみると、樹木などの自然には稀に精霊が宿ることがあるのだそうです。
特に長い年月を経た物にはその傾向が多いそうで、何の断りもなく伐採等で環境を変えてしまうと、行き場のなくなった霊が荒ぶることがあるのだそうです。
今回の場合、私が切ったあの樹木には精霊が宿っていたという訳です。
友人の親父さんは、長く地主をしている経験からピンときたのだと言います。

樹木を伐採した場所へ私達が到着すると、神主さんは手際よくお祓いを行い始めました。
その時は恐怖というよりも、魂が宿っていた樹木を仕事という理由で何となく切ってしまった事への罪悪感が強く、私は一生懸命手を合わせました。

完成した駐車場の一画には、私と友人の計らいで当初の予定にはなかった樹木を植えさせてもらいました。
あまり信心深い私ではありませんが、この件以来、どんな木を切る場合でも事前に祈祷を欠かさず行うように心掛けています。

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