実話系・怖い話「友達の家にて」
私は子供の頃から霊が見えます。
ですが幽霊が見えるといっても未だに半信半疑で、生きている人と区別がつかない時もあるし、あれが本当に幽霊かと問われると、はっきり見えたとは言いにくいときもあります。
これはそんな私が体験した話で、名称はすべて仮名です。
高校2年の夏に、同じ部活の由美が
「明日から夏休みだけど、予定ある?」
と聞いてきました。
特に予定もない私は、由美に誘われるまま家へ泊まりに行くことにしました。
「あのさぁ、うち幽霊がいるみたいなんだけど…見てくれない?」
由美は、私が見えていると理解している唯一の友達です。
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由美の家は、街から1時間近く離れた山間部にあり、平家の落人伝説がある集落の1つです。
私は1人で午後のバスに乗って、曲がりくねった狭い山道をずんずん登っていきます。
由美は毎日こんな道をスクールバスで通学していた事を、初めて知りました。
家はお寺の隣にあり、お寺と家の間には墓地がありました。
由美の家はお寺なの?と質問すると、違うといいます。
ご両親や由美の妹達と明るいうちに夕食を食べ、広い屋敷を案内してもらいました。
かなり大きく立派な瓦屋根の家で、複数の座敷がある1階には、その外側を囲むように廻廊がありました。
「広いだけ、掃除が大変なの。」
天井は高く、丸太の柱が梁として使われていました。今となっては希少な造りの家なのかもしれません。
特に気味の悪い場所は無い気がしましたが、お風呂場とトイレの辺りは足がすくむ気がしました。
古い家ではよくあることで、水回りに先祖の霊がとどまっていることがあります。
家を見た後は由美と一緒に風呂へ入り、上がると家族はいませんでした。
夜は霊が出るので、2階で過ごすというのです。
2階には6畳ほどの小部屋があり、4人家族が集まって寝ているとのことです。
本来平家だったものを父親が無理に増築したとのことでした。
ぎっしり敷き詰められた布団に息苦しさを感じた私は
「下の部屋でもいいけど…。」
と提案しました。
由美は「一緒ならいい」といって、布団を下の仏間に敷きました。
さて寝る準備は整いましたが、まだ夜7時です。
ポットとお茶と茶菓子を母親が用意してくれ、2人布団を並べて電気を点けたまま先輩のこと、同級生のこと、今後の進路などいつまでも話は止みません。
そのうち由美が寝息を立て始めました。
由美が寝ると急に心細くなった私は、グロウランプは点けたままにして布団に潜ります。
山の中だからなのか、夏だというのにやけに涼しい。
風の音なのかサワサワと微かな音が聞こえ、寝ようとしているのに神経が研ぎ澄まされます。
更にはトイレに行きたくなってしまいました。
由美を起こそうとした時でした。
ザザザ…
廊下から何かを引くような物音がします。
明らかな異音に、私は大きな声を出してしまいました。
「由美、起きて!」
由美はハッとしたようにすぐに目を開けました。
「…トイレ。」
由美が電気を点け、襖を開けて真っ暗な廊下に出ます。
さっきの音はしません。
すぐ先がトイレで、私は由美を怖がらせないように「ごめん、ごめん。」と言いながらトイレに駆け込みました。
ほっとして出ると「待っててね」と由美が入れ替わりでトイレに入ります。
ザザ…
また引きずる音が聞こえます。
「由美、まだ?」
たまらなくなって、入ったばかりの由美を急かしました。
もの音はもうそこの角まで来ています。
そうだ!音の正体を見ておかなきゃ!
不意にやるべき事を思い出した私は、怖さを押し殺して柱の影に身を隠し、音が近づくのを待ちました。
ざんばら髪の鎧甲冑姿の武士が、何かを引きずって歩いています。
よく目を凝らすと、仰向けに倒れた着物姿の老女の髪を掴み引きずっているのです。
バンッ!と勢いよく由美がドアを開けて出てきて、私の腕を引っ張ったまま座敷に駆けこみました。
「見たの?!」
私は頷きます。血の気が引いているのが自分でもわかりました。
音はずっと鳴り続けていて、私の頭の中にはあの光景がフラッシュバックします。
私達はそのまま寝る事なく、息を潜めながら朝が来るのを待ちました。
「やっぱりいたのか。あなた霊は祓えるのかい?」
朝食をごちそうになりながら父親から聞かれるも、私はただ見えることがあるだけだと伝えます。
「幽霊相手じゃなにをすればいいのか…。」
「隣の寺に相談して下さい。」
隣が寺なら好都合だし、私の出番ではなかったのではと思いました。
昼過ぎに住職がやって来ました。
「実は、うちの寺はこの山田家(由美の名字)の墓守で、いつの頃からか集落の寺になったんだと伝えられている。」
私が昨晩見た光景を話すると、その後宗派の本山に呼びかけて、大きな法要をして村にそぐわないような石碑も建てたそうです。
住職の話では、霊が騒がしい時は災害の前触れと考えるらしく、思い切って法要をしたのだと言います。
由美の家では、それから霊が出なくなりました。
「幽霊になってずっと引きずられている老婆がかわいそう。何をしてしまったんだろう。だってうちのご先祖様に仕えてたおばあちゃんって事でしょ?」
由美の疑問を聞いて、私はピンときました。
土地に伝わる昔話に、ここの領主の赤ん坊を谷底に捨てた老婆の話しがあります。
領主の家系が途絶えた後、他所から来た領主に村民達は長い間苦しめられた。老婆は他所から来た領主の姉だと伝わっています。
怨みをかった人間の末路に、私は思わずゾッとせずにはいられませんでした。
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