恐怖の泉

実話系・怖い話「カーナビの先」

これは数年前の夏に、私が体験した不思議な出来事の話です。

私は毎年、学生の頃から仲良しだった友人と、夏か秋頃に旅行をしていました。
その年は夏に旅行をしよう!と決まり、私と友人2人のいつものメンバーで、地方にある森のコテージに泊まることとなりました。
当日は一番運転に慣れている友人へハンドルを任せ、数時間ほどかけてドライブし、目的地へ到着です。

着くともう夕方で、お腹もペコペコです。
早速途中で買ってきた食材を使ってバーベキューをし、満腹になったらおしゃべりをしてまったりしているうちに、すっかり辺りは暗くなってきました。
夏なので日が落ちるのは遅いですが、20時を回るとさすがにもう真っ暗です。
そろそろコテージへ戻って休もうかということになりましたが、せっかくなので温泉でも入ってゆっくりしたいね!という流れになりました。

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旅の1日目というのはやはり疲れますし、温泉に入ることで意見が一致したのですが…私たちが泊まるのは旅館ではなくコテージなので、温泉はついていません。
近くにあるかどうかググってみると、良さそうな温泉が車で少し行った所にありました。
私達は着替えなど最低限の荷物を持ち、車を走らせました。

土地勘のない場所なので、辿り着くにはカーナビだけが頼りになります。
森の中で街灯も少なく、辺りは真っ暗です。
しばらく走ると普通の道路に出たので、楽しく会話しながら進んでいると

「右です」

カーナビが急に、そう一言だけ発しました。

カーナビは本来「○百メートル先、右方向です」などと言いますよね。
それがいきなり「右です」と行ったのは少し驚きました。
私達は、まぁ人気のない場所だからかな、くらいにしか思いませんでした。

急に言われたので曲がる事が出来ず、道を少しバックで進みます。
「右です」
同じ所でまたアナウンスが出たので、ここだねって思ってナビの通り車を走らせました。

道路は細っこい山道になっており、真っ直ぐ突き進むことしか出来ません。
対向車が来たら終わりだね…なんて話しながら進むも、次第に私達は不安になりました。
どんどん森が険しくなり、人里から遠ざかっている気配です。
果たしてこの先に温泉なんてあるのだろうか、そう思い始めました。

もはや車内では話をする人もおらず、妙な緊張感に包まれています。
引き返そうかとも思いましたが、細い一本道でUターンが出来そうな幅などありません。
試しに戻れるかどうか道幅を確認しようと、車を停めて周囲を確認した時、絶句しました。
道のすぐ脇が崖になっていたのです。

もう温泉どころではありませんでした。
誰も言葉には出しませんでしたが、頭にあるのは「怖い!」という思いのみです。
私達は引きつった顔を見つめ合い、どうしようか悩みました。

ともかく今のままではどうしようもないですし、下手にUターンをして崖から落ちたりしたら危険です。
もう少し進んでみて、少しでも幅があるところでUターンをして引き返そう、という事でまとまりました。

とはいえ、この先がどうなっているのか誰にも分かりません。
結構時間は経っていたのですが、対向車が1台も無い事から、人が居ない所へ進んでいる感覚だけはありました。
不安の中ゆっくり車を走らせていると、ついに大きなスペースを見つけました。

あそこでUターンをしよう!これで助かる!と安堵した私達は、そこへ向けて走らせてストップし、切り替えそうと試みます。
すると…車のヘッドライトがボロボロに朽ちた廃墟の姿を照らし出しました。
そしてその瞬間
「着きました」
とだけカーナビがアナウンスし、電源が切れてしまったのです。

その後は温泉どころではなくなり、コテージへ戻りました。
今でもこの恐怖体験は私達の話のネタとなっています。
あの日味わった凍りつくような恐怖は、忘れる事が出来ません。

私達は廃墟の何かに、呼ばれていたとでもいうのでしょうか…。

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