恐怖の泉

実話系・怖い話「影時計」

これは、私が地方のビジネスホテルに1人で宿泊した時の話です。

そこは駅近くにあるホテルでしたので、駅前のデパートで軽くショッピングと食事を済ませてからホテルへ向かいました。
ホテルのフロントには人がたくさん並んでおり、平日なのに大盛況だなあと思いながらチェックインをしたことを覚えています。
フロントの女性も愛嬌が良く、テキパキとチェックインの作業をこなすので、「また宿泊したいな」と感じていました。

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エレベーターに乗り、部屋のある階のボタンを押して到着を待ちます。
その時、フワッと頬を何か冷たいものに撫でられたような感覚がありました。
何だろうと思いつつ、チンッと大きな音と共にエレベーターが止まり、ドアが開きます。
とりあえず部屋で休もう…とエレベーターから降りて歩き出した途端、後ろの方から強い視線を感じました。
振り返ると、大柄な人の影のようなものがエレベーターにいたのです。

ウワッ!と思い両目を瞑ってまた開いてみるも、すでにエレベーターのドアは閉まって上の階へと昇っていきました。

何か嫌なものを見てしまった…。
背筋がゾクゾクとする不快な気持ちに襲われ、私はホテルに泊まらず帰りたくなりました。
ですがキャンセルすればバッチリ1日分の宿泊料を払うことになるので、それももったいないと思い、考えた末に宿泊することとしました。

恐る恐る部屋の鍵を開け、中に入って異変が無いか確認します。
綺麗に清掃されて暖色の光が灯る部屋を見ると、安心したのか眠気が襲ってきてしまい、立っているだけでもしんどい状態です。
「早くベッドで寝たい」と感じた私は、勢いよくベッドへとダイビングしました。

私は寝てしまえば朝まで起きることがほぼ無いので、さっさと寝て明るくなってからシャワーを浴びようと、かけ布団の中に潜り込みます。
寝る直前、心の中で
「できれば朝の5時には起きたいなぁ」
と呟いたのを最後に、私は眠りに落ちました。

次にふと起きて両目をパッと開くと、私の寝ているちょうど腰の横あたりに大きな黒い影が立っているのに気付きました。
その黒い影は、エレベーターに乗っていたあの影とそっくりでした。

「ウワッ!このままではマズいかも!」
咄嗟に身の危険を感じた私は、起きあがろうとしました。

すると大きな黒い影から手のような物がニュッと伸びてきて、私の肩と腰に手を当てたかと思うと凄い勢いで前後に揺すり出しました。
その揺すり方は凄い力でしたから、私はベッドから落ちそうになってしまいました。

信じられない状況でしたが、ここまで来ると逆に私の頭は冷静になりました。

この黒い影は何なんだろう。
結構力が強いな。
いきなり揺すってくるのも変わっているな。

色々な事を考えながら、もやは怖いというよりも起きたいから早く終わって欲しいな、そう思った時でした。
あれだけ力強く揺すっていた黒い影から力が抜け、その影も消えてしまったのです。

本当に忽然と影は消えて、部屋には何も異変がありませんでした。
どこかに消えたということは、あの影はまた出て来るのではないかと考えると、鳥肌が立ってきます。
何気なく時計を見ると、5時ピッタリでした。

その時、ひょっとしてあの影は私が起きたいと思った時間を狙って起こしにきてくれたのかもしれない、そう感じました。
そう考えると、あの大きな黒い影は良いヤツだった…のかもしれません。

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