恐怖の泉

実話系・怖い話「神隠しの空き家」

家から歩いて30分くらいの所に、和洋折衷な造りの古い空き家がある。
高校の登下校で気分転換がてら稀にそこを通るので、自分にとってはとても馴染みのある建物だ。

それは自分が物心つく以前からある建物で、確かに長くそこに居座っているということだけはわかっている。
門に表札はなく、草も生え放題で、空きっぱなしのガレージには日曜大工品やらガラクタやらがめちゃくちゃに押し込まれたまま放置されている。
2階建てで、窓ガラスはヒビが入っており、こびりついた汚れのせいでガラスは曇って中はよく見えない。

ずっとそこにあるので特に興味もなく、ただ風景の一部としてしか捉えていなかった空き家…のはずだった。

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ある日、学校の帰りにその空き家の側を通ったら、何かを叩くような音が聞こえてきた。
どこかで工事でも始まるのかと思い、その時は気にもしなかった。
1週間後、またその空き家の側を通った時、また何かを叩くような音が聞こえて来た。
工事があるのだとしたら、何かしらの準備がされているはずだが…周辺にはそんな様子もない。
それからしばらくぶりに空き家の側を通ってみると、連打しているような音が聞こえてきた。

空き家から聞こえてくる?
音によって意識を空き家へ向けられると、無性に中が気になってその場を離れることができなくなってしまった。

しかし誰も住んでいないことが明らかだとはいえ、所有物であることには間違いない。勝手に入ってしまえば、不法侵入になってしまう。
だがこの空き家の異変に誰も気づいていないとなると、それもちょっと心配だ。
何か事件にでも関係していたりしたら大変なことだから。

警察に報告しておいた方がいいだろうか、そんなことを考えていた矢先、偶然にも自転車へ乗った若い警官が前方からやって来る。
勇気を出して知らせてみることにした。

事を話すと、警官は「なるほど…」と頷いて耳をすませるが、さっきまでの打音は聞こえてこない。
警官は「本部へ報告しておくので、もう遅いから帰った方がいい」と言ってくれたが、私のような若者が言った事を信じて本当に対応してくれるのかどうか、不安になってしまった。
そんな自分の心情を察したのか、若い警官はちょっとだけ中を見てみると言ってくれた。

門には錠前が掛かっていたが、ガチャガチャと弄っていると簡単に外れて門が開いた。
警官は夕暮れの雑草が生い茂った庭先へ踏み入れ、足元を確認しながら空き家のドアの方へと歩いて行く。
自分も興味から、警官の後をゆっくりと付いていく。

警官がドアの取っ手をひねって開けようとするも、開かない。鍵が掛かっているようだ。
他に入れるところはないかと家の周りを一周していると、さっき聞いた打音がわずかに聞こえた。

「誰かいるのか。」

警官はスイッチが入ったように真剣な顔つきになった。
そしてベランダを支えている柱をよじ登って2階へと上がった警官が、大きな窓ガラス風のドアを開けようとするがなかなか開かない。
そこも鍵が閉まっているのかと思いきや、ガタっと窓が傾いて開いた。

警官は警戒しながら中へ入っていった。夕暮れ時にしてはまだ明るいが、空き家の中は暗そうだ。

それから15分くらい経っただろうか。
中に入っていった警官は戻って来ない。

自分は堪らずに「おまわりさん!」と声を出したが、返答はない。
そうしてしばらく待っていると、またあの打音が聞こえてきた。

何かまずいことが起こったのではないか。
自分は110番に電話してこのことを話した。
今思えば、相手にされなくてもよいから最初に110番へ連絡するべきだった。

近くをパトロールしているパトカーに立ち寄ってもらうということで、電話を切ったら間もなく2名の警官が来てくれたので再度事情を話す。
しかし姿を消した若い警官と連絡を試みるも、返答がない。

辺りが暗くなってきたので、逃亡犯などを追う時に使用するようなでっかいライトが空き家の中に運ばれて、捜索が行われることになる。
中がどうなってるのか確認できない自分は、もどかしさを感じつつ若い警官の身を案じた。
しばらくすると2人の警官が戻ってきたが、中には誰もいないということだった。

自分はキツネに包まれたような妙な気分になった。
まさか他の出口から出て行ってしまったのか?
だが結局、若い警官の姿は忽然と消えたまま。数日後には行方不明者となってしまった。

再度空き家での捜索が行われるも中には誰もおらず、特に異常のない普通の空きやだということだった。
だが若い警官が被っていた帽子だけが発見された。
この空き家の元の持ち主であった男性も、実は行方不明になっているそうである。

私が空き家と若い警官について知っている事はこれが全てだ。
捜索は4ヶ月にわたり、延べ300人の警官によって行われたが行方不明のままだ。

神隠しというのが本当に存在し、自分の目の前で起こったとは未だに信じられない。
打音が聞こえたということは、動力のある何かが中にあったということなのだろうが…自分には手の打ちようがない。

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