恐怖の泉

実話系・怖い話「13階の空室」

ある日私は会社から1ヶ月間の出向を命じられ、地方都市へ向かいました。
1ヶ月の宿泊は会社が用意してくれたマンションです。しかしそのマンションは、仕事場から車でも2時間かかる離れた場所にありました。

知らない土地・知らない人たちという環境に加え、通勤に2時間は正直辛いと感じました。
そこで私は仕事場の近くに宿泊所となる物件はないか探しました。

とりわけ観光地でもないその町には、ホテルや旅館などはありませんでした。
まぁ1ヶ月の辛抱だしな…と諦め掛けた時、出向先の事務員さんが
「ここから15分ほど掛かるんですけど」
と、隣町の賃貸マンションを紹介してくれたのです。
私は早速、不動産屋へ飛び込みその賃貸マンションを借りる手続きを取りました。

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そこは周りの建物とは不釣り合いの高層マンションでした。
不動産屋さんと空いている部屋へ向かい、ドアを開け中に入るとヒンヤリした空気の中にカビくさい匂いを感じました。
背後にゾクッとする人の気配のようなものを感じ、振り返りましたが誰もいません。
腕組みをしながら部屋中を見渡しましたが、チョット何かがありそうな予感はしました。

「空いている部屋はここだけですか?」
と訪ねましたが、どうやらその部屋しかない様子でした。
仕方なくこの部屋を借りることにした私は、一つしかないという鍵を不動産屋さんから受け取りました。

翌日の朝、エレベーターに乗り「1階」のスイッチを押しました。
仕事ダルいな~などと思いを巡らせていると、いつの間にか1階に着いていたのでエレベーターを降りようとしました。
するとその時、初めて女性が一緒にエレベーターへ乗っていたことに気付きました。

「あれ?どこで乗ってきたんだろう…どこかでエレベーター止まったっけ…」

私がエレベーターへ入った時、確かに誰もいなかったはずです。
ですが昨日は会社が用意してくれたマンションからの移動に夜遅くまで掛かってしまったので、きっと寝ぼけていたんだろう、気付かないうちに乗ってきたんだろうと思い、余り気にもとめませんでした。

そして1日の仕事が終わり、マンションへ戻った私はエレベーターを待っていました。
ふと朝の出来事を思い出し、周囲を見ましたが誰もいません。確かに私1人だけです。

誰も乗っていないエレベーターに乗り込み、13階のスイッチを押しました。
エレベーターが13階へ到着して扉が開き、降りようとすると、また朝居た女性が乗っていたことに気付きました。

「エッ?!」

思わず声を出しそうになるほど驚きましたが、「こんばんは…」と小さな声で挨拶をしてエレベーターを降りました。
私の頭の中は怖さと驚きで一杯です。
確かに誰も乗っていなかったはずでした。突然、パッと女性が目の前に現れたのです。

翌朝、エレベーターに乗るのは怖かったのですが、13階から階段で下りるのも…と思いエレベーターを使いました。
しかし例の女性と乗り合わせることはありませんでした。
「何だ、やっぱり私の思い違いか」
と、私はホッと胸をなでおろしました。

とある日、私は残業となってしまい帰宅が深夜になりました。
エレベーターを使って部屋まで直行し、真っ暗な部屋に明かりを付けた瞬間、背後に強烈な人の気配を感じました。

人がいるはずもありません。でも、背後に人の息遣いをビシビシと感じます。
冷や汗が垂れるほどの緊張と恐怖の中、私は心の中で「いち、にい…」と数え、「さんっ!」で思い切って後ろを振り返ってみました。

後ろにはエレベーターで乗り合わせた、あの女性が立っていました。

私は絶叫しながら部屋を飛び出しました。そして最寄りの交番へ飛び込み、警察官と一緒にマンションへ戻りました。

部屋に入ろうとすると、開けっ放しで飛び出したはずのドアの鍵が掛かっていました。
ですが鍵は私の服のポケットの中です。
オートロックではないマンションですので、鍵を掛けなければ鍵は掛かっていないはずです。
警察官と一緒に部屋の中をくまなく探しましたが、誰もいませんでした。
「お疲れのようですから、勘違いでもしたんでしょう」
と言い残して、警察は帰って行きました。

その日の夜は恐怖で部屋に居るのも嫌でしたが、もうかなり遅い時間です。
とりあえず一晩過ごすことにしました。

しかし部屋に居ると、どこからともなくシーンと静まりかえった部屋に女性のすすり泣く声が聞こえるのです。
「もうダメ。これ絶対何かある。」
そう確信しつつ、私は布団を被りながら念仏を唱えて時間が経つのを待ちました。
その一晩は、間違いなく私の人生の中で一番怖い瞬間でした。

翌朝、朝一で不動産屋さんに行きました。
これまでの経緯を息もつかず話すると、不動産屋さんは申し訳なさそうにこういいました。

「実はあの部屋は、事故物件で本来ならお貸ししない部屋なのです。しかしお客様がどうしてもということでしたので…」

そして以前にあの部屋へ住んでいた女性が自殺をしたこと、1人でエレベーターに乗り13階のスイッチを押すと女性が現れるという噂があったこと、13階の部屋は人の出入りが激しいことなどを話してくれたのです。
「やっぱり、女性は本当に現れるんですね…」
不動産屋さんは独り言のように呟いていました。

女性が何故この部屋で自殺をしたのかは分かりません。
女性にはここで一緒に暮らしていた男性がいたそうなのですが、その男性も同じ頃に別の場所で自らの命を絶ったのだそうです。
そして2つあったはずの部屋の鍵は、1つしか見つからなかったという話も聞きました。

会社から用意されたマンションに戻った私は、無事に出向期間を終えて普段の生活に戻りました。
その後その地域には一度も足を運んでいませんが、あのマンションは今でもあるのでしょうか…。

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