恐怖の泉

後味の良い怖い話「母の後押し」

私は、母を1歳の時に病気で亡くしました。
そんな訳で、私には母との記憶は殆どありません。

私は父と父方の祖父母の4人で生活を送る事になりました。
父方の祖父母は私を大変可愛がってくれました。
そして幼稚園・小学校・中学校・高校など進学の節目や、春休み、夏休み、冬休みなどの長期休みには、父から必ず母方の祖父母の方へ泊まりに行く様に言われており、3泊程していました。

父は、母を愛していたんだと思います。
小さい私がいて大変だったかと思いますが、再婚もせずいまだに独身です。
母方の両親との交流も止めませんでした。

私は当然写真でしか母を知らず思い出も何もないのです。
そんな環境で育ったせいか、私の中で女性は体が弱く自分の前からいなくなるという思いが強く、恋愛をする事が出来ない状態でした。
いつになっても結婚する気配もない自分に心配する父や祖父母に対して、私はマイペースで仕事と趣味に没頭して充実した日々を送っていました。

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私が28歳になった時でした。ある日友人に誘われて合コンに行きました。
あまり合コンなど好きではなく誘われても断っていましたが、人数合わせで頼まれ仕方なく参加しました。
そこで、妻となるA子と初めて会う事になりました。

最初に会った印象は笑顔が素敵な女性だなといった感じで、特に私からアプローチはしませんでした。
女性を好きになるよりも、失うのではないかと…という恐怖が強かったのです。

しかし、自分の何が良かったのかA子は電話番号とアドレスを交換して欲しいと言ってきて、積極的行動に負けた私は教える事にしました。
その後、私は翌日仕事が早いのでと1次会で帰宅しました。

メールと電話番号をA子と交換していた事をすっかり忘れて、1週間が過ぎていました。
自分としては、仕事も忙しかったし今更こちらから連絡をしても忘れていて迷惑だろうなと思い、放置していました。

ところが2週間ほど経った金曜日に、A子から
「お久しぶりです。お元気ですか?なかなかメールいただけないので、こちらからメールしてみました。日曜日お暇でしたら何処かいきませんか?」
と言った内容のメールがあり、私は
「仕事が忙しくメールが出来ませんでした。申し訳ありませんでした。日曜日は休みです。ドライブでもどうですか?」
とお詫びもかねて返事のメールをし、A子と出かけることになりました。

そして日曜日、ドライブで山へ行きました。
途中昼食でレストランに寄り、山がよく見える所で車を止めて景色を眺めました。
そこでA子から初めて会った時から気になっていたので、恋人として付き合って欲しいと告白されました。

私は自分が抱えるトラウマの話をしましたが、A子は
「私は、健康だけが取り柄だから大丈夫だよ」
と笑顔で答えてくれました。
もしかしたらこの人となら…と思った私は、彼女と付き合うことになりました。

付き合ってから1年も経つと、A子の両親が結婚を勧めてくるようになりました。
私は当然A子のことは大好きでしたが、どうしてもトラウマが頭から離れず、なかなか結婚には踏み切れないでいました。

そんなある日です。
私は、1人で考えたく母の墓参りに行きました。

母の墓に手を合わせ
「A子という女性と結婚を考えているが、結婚すると母の様にいなくなるのではないか…」
と心の中で話しかけていました。
すると、後ろに人の気配がするのです。

振り返ると若い女性が立っていました。
懐かしくて優しい感じの印象があり、どこかで見た事のある顔だなと最初はピンときませんでしたが、それは母でした。
写真でしか見た事がありませんでしたが、私にはわかりました。
不思議と怖いとは思いませんでした。

母は私に
「今まであなたの成長を見てきたよ。A子さんは大丈夫!迷わず結婚しなさい!」
と笑顔で言うと、消えてしまいました。

私は思わず泣きました。
そして母のお墓に再度手を合わせお礼を言い、そのままの勢いでA子へ電話して
「大切な話があるので次の日曜日会って欲しい」
と伝えました。

今では、私は1児の父親です。
あの時、母が出て来て後押ししてくれなければこの幸せはなかったと思います。
母の墓参りへ家族を連れて出かけるのが、今の私にとっては親孝行なのかなと思っています。

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