実話系・怖い話「田舎の夜道」
これは10数年前、仕事で地方に行っていた時のお話しです。
仕事の関係で寮に数ヶ月泊り込んでいたのですが、これがかなりの田舎で寮の周辺には何もありませんでした。
現場近所に立てた簡易施設が寮になっていたので、夜になればポツポツと立っている街灯のみが辺りを照らすのみで、現場が稼動している昼間とは対照的にとても暗くひっそりした景色に変わります。
暇なので一人で周辺を散歩しようにも、その暗さですから大人でも少々尻込みをしてしまうような状況です。周りに商店もなく、遊びに行くような場所も無い状態ですから、夜の楽しみといったら同僚と酒を飲むことくらいしかありませんでした。
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ある晩、同室の同僚と部屋で飲んでいたところ、盛り上がって気がついたら深夜になっていました。
いつもなら水を飲んで済ます所なのですが、手持ちの酒も終わってしまい、どうしても炭酸が飲みたくなって同僚と共に外へ炭酸飲料を求めに出かけることになりました。
幸いにも、寮から数百メートル歩いた所に自動販売機がある事を知っていたので、そこまで酔い覚ましの散歩も兼ねていってみよう、という事になりました。
2人とも酔いも手伝って思ったよりも怖いと思わず、グダグダ喋りながら自動販売機まで無事に到着しました。
「なんてこと無かったね」
などなど話つつ、私は自動販売機に小銭を投入しました。
先にジュースを購入した同僚は、少し離れて飲み物を飲みつつ辺りを眺めていました。
シーンとした暗い風景の中、聞こえるのは虫の鳴き声と田んぼからのカエルの合唱。
こんなに真っ暗じゃなければ、夜も静かで本当にいいところだな、と思いつつ自動販売機の取り出し口に落ちたジュースを取り出そうとしたところ、引っかかってなかなか出てきません。
するとその時
「おい…おい…」
間を空けて、すごくしわがれた低く野太い声が耳元で聞こえました。
これは同僚がふざけて自分を驚かそうとしているに違いないと思い、その声を無視してジュースを取り出そうとしていると
「おい!」
先ほどよりも若干大きめの声で呼ばれました。
さすがに耳元で大きな声を出されたので、少々悪ふざけがすぎる同僚に苛立ち、文句を言おうと勢い良く振り返ったところ…
そこにいたのは同僚ではなく、巨大な獣の部分を持った人間の顔がありました。
自分の顔の三倍ほどの大きな顔。獣の部分とは、顔の下半分が肉食獣のように大きく割れた口でした。上半分はお爺さんなんです。
「うおおお!」
と叫ぶと私は一目散に走っていました。
後ろから驚いて追いかけてくる同僚の声が聞こえますが、何を言ってるのかも解らず頭が真っ白で、とにかく夢中で走りました。
寮の部屋に戻って気持ちが落ち着いた頃、同僚がぽつりと言いました。
「もう夜は出ないようにしよう」
それからその現場での仕事が終わるまで、その夜の事については私も同僚も頑なに喋る事はありませんでしたが、無事現場が終了し、数ヶ月経ってから一緒に飲みに行った際、あの時に見た化け物の話になりました。
すると言いにくそうに、同僚が話を始めました。
実はその同僚は、いつもではないが霊などの類が見えることがあるようで、あの自販機に辿り着いた時、すでに半獣人な爺さんの巨大な顔を見ていたそうです。
ですがその時は
「すごく怖くて声も出なかったんだけど、お前も怖がらせるといけないから、そっと離れて落ち着こうとジュースを飲んでいた」
のだそうです。
今となっては「怖かったね」で終われる話ですが、当時怖い思いをした場所の近くに数ヶ月も寝泊りをしなければならない状況は相当怖かったです。
幸いにもその後、その顔を見る事はありませんでしたが…今でもその顔ははっきりと思い出せるほどのインパクトと恐怖がありました。
あの時に見たものが何なのか、今では知る術はありませんが、たまに夜道端の自動販売機で飲み物を買う時に、思い出してしまいます。
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