恐怖の泉

実話系・怖い話「炭疽症」

炭疽症(たんそしょう)は炭疽菌による感染症で、炭疽症に感染した牛、羊、ヤギ、馬などの家畜から人へと感染する人獣共通感染症です。
炭疽症は感染する場所によって「皮膚炭疽」「肺炭疽」「腸炭疽」「髄膜炭疽」があります。

感染経路

炭疽症の原因となる炭疽菌は非常にありふれた細菌で、世界中の土壌に存在します。
炭疽菌は除去しようと試みても耐性の高い芽胞(冬眠のような状態)を形成するので、菌自体を撲滅することは不可能に近いです。
炭疽菌の感染経路は炭疽菌に感染した家畜からで、人が自然に感染することは極めて稀です。
人から人への感染はないと考えられていますが、危険性はあるので注意する必要があります。

炭疽菌は触っても、吸い込んでも、食べても容易に感染する特徴があります。感染部分の違いによって症状は異なりますが、人でも家畜でも感染すると死亡率が高い怖ろしい病気です。

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症状

炭疽症の約95%は皮膚炭疽で、菌に汚染されたものを触ると感染します。
感染部分はおよそ1~7日の潜伏期間の後、ニキビや虫さされのような症状が現れ、痒みを伴う場合もあります。そして周辺に水疱ができ、黒いかさぶたを形成して高熱を出します。
ほとんどの感染者は治療によって治癒しますが、菌がリンパや血液に入り込むと重篤な症状を引き起こします。
治療しない場合の致死率はおよそ10~20%です。

腸炭疽は炭疽菌に汚染された飲食物を加熱しないで口にした場合に発症します。
2~5日の潜伏期間の後、嘔吐、食欲不振、発熱が起き、腹痛、吐血、激しい下痢(膿や血液が混じる)を生じます。最終的には敗血症となり、ショック・チアノーゼを引き起こして死亡します。
致死率は治療をしたとしても25~50%と高く、危険な症状です。

肺炭疽は炭疽菌を吸い込んで感染した場合に起こり、重篤な症状を引き起こします。
菌の吸入後1~40日ほどで、風邪などと同じように高熱、咳、体のだるさをや筋肉痛といった症状が出ます。
しかし数日後に突然呼吸困難が襲い、発汗・胸痛・チアノーゼを引き起こし、24時間以内に死亡します。治療をしない場合の致死率は90%以上なので、早期に治療をしないとかなり危険です。

髄膜炭疽は炭疽菌が脳や髄膜周辺に感染した場合の症状です。
皮膚炭疽から約5%、肺炭疽だと約60%の患者が髄膜炭疽に移行するとされています。稀に感染初期から髄膜炭疽となる場合もあります。症状は意識がなくなる、溶血性の髄膜炎です。
髄膜炭疽になると、残念ながら治療したとしても発症後2~4日で死亡します。致死率は100%です。

治療・予防方法

炭疽症の治療は抗生物質の大量投与ですが、何より早期発見が重要です。
ですが最初から炭疽症を疑わない限り、早期発見は難しいです。
ワクチンもあるにはありますが、接種回数が多く副作用の可能性もあるため改良が望まれます。ちなみに日本では人への炭疽ワクチン使用が認可されていません。

日本での炭疽症は、昭和48年まで毎年1~2人ほど発生していましたが、その後減少し、平成7年以降は人に感染したケースはありません。家畜への感染も近年では見られません。
しかし世界では感染が発生しており、スペイン中部からギリシャ、地中海を挟んでトルコ、イラン、パキスタンの辺りと、赤道アフリカ地帯は炭疽菌による土壌の汚染レベルが高いです。
特にトルコからパキスタンにかけては「炭疽ベルト」と呼ばれ、年間数百人の感染者が発生しています。

炭疽菌の感染経路は炭疽菌に感染した家畜です。ですので動物へ炭疽ワクチンを投与することによって炭疽症は予防できます。
日本にいる限りは、炭疽症を心配する必要はないと言えるでしょう。安心とは言えませんが…。

兵器としての炭疽菌利用

炭疽菌の怖いところは、生物兵器としての利用が懸念されている点です。
炭疽菌は短期間で感染発症し致死率も高い、人から人へと感染しない、どこでも入手可能、培養が比較的容易という、生物兵器としてはうってつけの細菌として研究されていました。
しかし実際に兵器として利用するには、確実な治療・予防方法がまだない、使用すると半永久的に土壌が汚染されるという危険があります。

炭疽菌に関する事件はいくつか発生しています。どれも炭疽菌が兵器として実用できることを示唆していて、威力も恐ろしいです…。

グリュナード島の実験
1946年、連合軍はスコットランド西岸のグリュナード島を買い取り、そこで炭疽菌爆弾の投下実験を行っています。
当初の予定では、その後計画していた除染作業によってグリュナード島の炭疽菌汚染は解消できると考えられていたのですが、芽胞を形成した炭疽菌の除去は困難となり失敗。結果、島内に生息している動物には高頻度で炭疽症が発生してしまいます。
数十年放置されていましたが炭疽菌の汚染は衰えることがなく、1986年と1987年に島全体をホルマリンで消毒。1990年には炭疽の発生が終息したのですが…今度は島がホルマリンに汚染されてしまい、現在では無人島となっています。
炭疽菌を兵器として利用すると、その土地は半永久的に汚染され続けるということが判明した事例です。

【グリュナード島の場所】

スヴェルドロフスクの研究所事故
ソビエト連邦のスヴェルドロフスクにあった生物兵器研究所にて、1979年に炭疽菌の漏出事故が発生しています。
事の発端は粉塵を回収するフィルターの取り付けに不備が起き、炭疽菌の芽胞の粉末が換気口を通って拡散。除去を試みようとしたものの処理が不適切だったため、周辺住民や軍関係者が肺炭疽を発症し、1,000人もの方が亡くなったと推測されています。
炭疽菌の兵器としての恐ろしさを象徴するような事件です。

亀戸異臭事件
オウム真理教が炭疽菌による生物兵器を計画して、1993年に東京亀戸の新東京総本部から炭疽菌の散布を行った事件です。
幸いなことに不能犯だったため大事には至りませんでしたが、日本でこのようなテロ事件が発生したことは衝撃を与えました。

アメリカ炭疽菌事件
2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件発生後、報道関係者や議員へ炭疽菌入りの郵便物が届けられて22人が感染。内5名が肺炭疽を発症して死亡した事件です。
この事件はテロリストの仕業という疑いがかけられ、世界中で郵便物に対する注意喚起や、白い粉を使ったいたずら(炭疽菌が白い粉と報道されていた)などが起き混乱を招きました。

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