実話系・怖い話「便器から生えた顔」
小さい頃は当たり前のことだと思っていたことは、大人の目から見ると異常なことだったということは珍しく無い。
もうすぐ妹が生まれるので母さんが入院した頃に、私を持て余した父さんは大叔母に私の世話をするよう頼んでいた。
私はこの人があまり好きでは無かった。
母親と祖母はちゃんと二人居るのに、その二人を差し置いて「おばあちゃんヅラ」するその人が嫌いだったのだ。
しかし、父さんはこの人に随分可愛がってもらっているようなので、仕方なくおばあちゃんと呼び慕っているふりをしていた。我ながら嫌なこどもだったと思う。
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その人の家は、全室畳敷きで部屋の奥に板張りの廊下があり、その先にトイレがある。
汲み取り式のトイレで、手前に男子用小便器、奥に和式のトイレと続く。
この小便器に時々、顔が生えていた。
学校にあるような便器では無く、もっと小さめの丸っこい物。
その容器にぴったり収まるように、顔が生えていた。
ゴムボールにヌイグルミの目鼻を付けたような具合で、鼻の半分まで覗かせて、トイレに入るとチラリとこちらを見てくる。
特に何をしてくるわけでも無く、不思議と怖いということも感じなかったので、その当時はあまり気にしていなかった。
ある日、夕食時に何気なくその顔の話を大叔母にすると、「変な嘘を言うな気持ち悪い」と、それはそれは凄い剣幕で怒鳴られた。
本当の事を話しているのに怒られたと言う理不尽さに怒りを覚えたが、大人の怒鳴り声と言うのは子供を委縮させてしまうもので、何も言い返せなかった。
その晩、寝る前にトイレへ行くとやはり顔が生えている。
こいつのせいで怒られたと感じていたので、文句を言ってやろうと思った瞬間、すぽっと抜けて浮き上がり窓の隙間から外へ出て行ってしまった。
「あ、居なくなっちゃった」と思うと、それまで感じていた怒りが消え寂しい気持ちになった。
しかし翌朝トイレに行くと、昨日消えたはずの顔がまたきっちり便器に収まってこちらを見ている。
しかし、顔を見たのはそれが最後。
それから何度か大叔母の家を訪ねる事はあったが、二度と顔を見る事は無かった。
妹や弟も幼少期に見た事があるらしいので、あの顔はそのくらいの歳のこどもにしか見えない物だったのかもしれない。
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