恐怖の泉

人間の怖い話「送ってくれませんか?」

ある日、某所で買物をしていると声をかけられました。
「あの~すいません。家まで送ってくれませんか?」
振り返ると、そこには若い女性がいました。
しかもあろう事か、かなりの美人さんではありませんか。
「財布を無くしてしまって、家まで帰れないんです…。」

事情を聞くと、Aさん(仮名)は1人暮らしで車等を持っておらず、歩いて帰るにも距離がある場所に住んでいました。
友人にも連絡したそうですが、誰も来てくれないようで困り果てて声をかけたようです。
これから夜で暗くなりますし、困っているなら助けてあげようと、私は善意で彼女を送ってあげる事にしたのです。

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Aさんと他愛のない会話をしながら車を走らせます。

「何でオレに声かけたの?」
「なんか優しそうだし、かっこいいなって…思っちゃって…なんて。」

Aさんとの会話は思わせぶりな表現が多く、私のテンションもつい上がってしまいます。
こんな子と付き合えたらなぁ~なんて思っていると、家へ到着です。
するとAさんが
「あの、お礼をしたいので部屋に来ませんか…?」
と言い出しました。

お礼?
ってかこんなかわいい子の部屋にオレが入っちゃっていいの?
これはもしかしたらラッキーな展開なのでは?!
下心満載でドキドキな展開に、私もすっかり舞い上がってしまいました。
それならと、Aさんのお部屋へお邪魔する事にしたんです。

「ここです、どうぞ。」

開けられたドアに促されて入ってみると…
部屋はガランとしており、人が住んでいる気配がありません。

えっ?何この部屋??

呆気にとられているとガチャリとドアが開く音がして、いかにもな怖い男性が3人、玄関から入ってきました。

「オイ、財布。」
ぶっきらぼうに男の一人が、私に命令します。
「いや、あの…」
突然の事に私が動揺していると、後ろに居た男が更に言います。
「財布出すのと病院送り、どっちにする?」

もう目の色といいますか、明らかに普通では無いんですよ。
悪い人って独特な雰囲気がありますが、そういうのとはまた違います。
他人を殺めても平気な人間は、きっとこういう人達なのだなというのが直感で理解できました。優しさとか情みたいな部分が全く感じられません。
しかも後ろに居た男はずっと顎に手を当てていたのですが、よく見ると小指が無い…。

生きた心地がしないまま、私は財布を渡しました。
「カードとかはねぇのか。」
緊張のせいか私は声が出せず、首を横に振るしかありません。
「どうする?」
男の1人がそう言うと、もういいよとAさんが嫌そうに言います。
すると奴らは札を抜き取り財布を床へボンッと落とすと、チッと舌打ちをしてそのまま部屋から出ていってしまいました。

私はしばらく放心状態でしたが、ハッと気づくと体がブルブル震え出したのです。
あぁ本当に怖い思いをすると人ってこうなるんだな~と、私は自分の体をまるで他人の物ように感じていました。

帰りにはそのまま交番へ立ち寄り、今あった事を通報しました。
「もしかして、それってこの人達ですか?」
警察の方は4枚の写真を私へ見せます。そこには、先程の4人が写っていました。

人の善意を逆手にとって悪い事をされると、本当に精神的に参ってしまいます。
冷静に考えれば、財布を落としたなら警察や店員へ相談しますよね。通りすがりの一般人に声をかけるなんて、不自然な気もします。
女性であれば、見ず知らずの他人へ送ってほしいとお願いするのも、また別の危険がありそうです。
ましてや見ず知らずの男を部屋に招き入れるなんてあるはずも無く、私にも防犯の意識が低かったのだと反省しています。

お金を取られただけで済んだのは不幸中の幸い、取られたお金も勉強代だったと、そう思うようにしています。

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