恐怖の泉

実話系・怖い話「私が見えた時」

これは私が、ケーキ屋でアルバイトをした時の話です。

販売員として私が入ったその店には、毎日7人ぐらいのパティシエがケーキを作っていました。
まだ店員の顔と名前が一致していない私は、お昼ご飯に従業員と話をして仲良くしようと思っていたのですが、出入り口の扉付近で作業をしている方とだけ、話す機会が巡ってきませんでした。
そのうち一緒になるだろうと思っていたのに、その気になっているパティシエさんとはいつまで経っても休憩で会う事がありません。

この人はいつ休憩を取っているのだろうと疑問に思い始めた頃。
閉店の片づけが終わり、皆で同時に帰る時がありました。
「みんな出た?更衣室を閉めるからね。」
声をかけられ、人数を確認すると皆居てるね。じゃあ帰ろうとなったのですが、私の計算ではあの扉付近でいつも作業しているパティシエさんが居ません。
私は
「ちょっと待って、もう1人パティシエさんが居ませんか?」
と言ったのですが、皆キョトンとしています。

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「帽子を深く被って、扉近くのテーブルでいつもケーキを作ってる人です。女の人なんですけど…。」
私が説明しても、そんな人居ないよね、と皆口を揃えています。確かに閉店まで一緒に働いていたはずなのですが…。
あれ~?と思ったのですが、話を長引かせるのも悪いので帰る事にしました。

休憩も取らずに、ずっと一生懸命にケーキを作り続けていたパティシエさんの姿を見て、私は仲良くなれるのを楽しみにしていたのです。
ところがそれきり、そのパティシエさんを扉付近のテーブルで見る事が無くなりました。
私が気になっていたパティシエさんは、皆が居ないと言った通り消えてしまったのです。
その時になって初めて、私は幽霊を見ていたのかもしれないと気づきました。

それから月日が経ち、私がケーキ屋で最後の出勤となった日。
店長が隣で一緒に販売をしていました。
店が混み始めてふと焼き菓子売場を見ると、店長の黒い制服の後ろ姿が見えました。
店長あっちに行ったんだと思ってそのまま接客していると、私の隣にも店長が居るのです。
なんと店長が2人になっていました。
私は驚いて後ろの透明ガラス越しに、パティシエのリーダーへ目で合図を送りました。
ところがリーダーはニコニコと販売の方を見て笑顔を返すのみ。どうやら見えているのは私だけのようでした。

それから私は時々、私にしか見えない人を見る時があります。亡くなったはずの人にとても似ている人とも会うことがあります。
店長のように、同じ人間が2人見えた事は今のところありません。
私は普通に生きている人間だと思って接している為、後になってから気づくのがほとんどです。
おそらく幽霊なのだとは思いますが、幽霊は人間と違って話をしません。話そうと思っていると消えてしまいます。また他人にその存在を話しても消えてしまいます。

幽霊は案外、そこら中をウロウロとしていて、見えているかいないかだけなのだと思います。

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