怖い昔話「皿屋敷」
その昔、領主に奉公していた「お菊」という女がいた。
お菊は大変な働き者で評判も良く、実際に誠実であった。
周囲からの信頼も厚く、女中仲間からも慕われていた。
ところがある日、お菊は家宝として屋敷で大切に扱われていた10枚の皿の1枚を、誤って割ってしまった。
お菊は壊してしまった事を正直に申し出て必死に謝るが、奥方の怒りは烈火の如く噴出して治まるどころではない。
「なんて事をしてくれたんだ!この皿はとても高価なものだから、あれほど大切に扱えと言ったではないか!」
「申し訳ございません!申し訳ございません!」
お菊は謝りながら、奥方からの暴行に耐え続ける。
そのうちに騒ぎを聞いた領主も現れ、割れた皿を見て顔面蒼白となった。
「あぁ…何てことだ…。大事な大皿が…。」
お菊は領主にも正直に申し出たのだが、領主は何を思ったかその場にあった包丁を手に取り、お菊へ振りかざした。
「あぁ~!」
お菊の腕に包丁が入り、鮮血が飛び散る。
「どうかお止め下さい!」
あまりの事態に見かねた女中達が割って入るも、領主と奥方の怒りは止まらない。
「お菊を牢へ閉じ込めろ!」
周囲の反対も空しく、お菊は領主の命で一室へ閉じ込められてしまう。
屋敷にはお菊が必死に謝る声と悲痛な叫び声が、長い間響き渡った。
翌朝になると、部屋から抜け出したお菊が敷地内の井戸へ身を投げ、亡くなっているのが発見された。
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お菊が亡くなってからしばらくすると、奥方の体調が悪くなり医者に診せる事態が起こる。
奥方の異常と合わせて、評判の良かったお菊が居なくなった事も噂で広まり、ついには公儀の耳へ入った。
何が起きているかと問い詰められた領主は観念して全てを話し、あまりに惨い内容であった為、罰として領地を没収されて奥方共々追い出された。
その後、残された屋敷に奇妙な噂が広まっていた。
夜中になると、井戸の辺りから女が何やら数える声が聞こえてくる、というのである。
屋敷の井戸は肝試しに丁度良いと多くの町民が足を運んだが、その声を聞くと誰もが身の毛のよだつ恐ろしさであったという。
そんな時、とある住職のところへ女が訪ね来る。女はお菊と共に、屋敷で働いていた女中仲間であった。
女はお菊が受けた不条理を話し、涙ながらにお願いをしてきた。
「もし、お菊さんの魂が成仏出来ずに屋敷へ留まっているのであれば、救って欲しいのです。」
そういう事であれば、と快諾した住職は、その日の夜に井戸へ向かった。
住職が井戸の前で待ち続ける。
すっかり夜も更けた頃、女の声が聞こえてきた。
「いちまーい、にまーい、さんまーい、よんまーい、ごまーい、ろくまーい、ななまーい、はちまーい、きゅうまーい…。
あぁ…うぅ…うぅ…。」
1から9まで数え、嗚咽を漏らし、また数え始める。
女はそれを、永遠に繰り返しているようであった。
女の声は、また数え始めた。
そして「きゅうまーい」と言い終えた瞬間、住職は大声で叫んだ。
「10枚!あった!ここにあったぞぅ!」
すると女の声は
「ありがとうございます…。」
と応えた。
その後、井戸で手厚い供養を行い、井戸から女の声を聞いたという者は現れなくなったという。
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