実話系・怖い話「適当に泊まった宿」
当時、大学生だった私はオートバイに乗って、付き合っていた彼女と色々な所へ旅行するのが楽しみでした。
これはその時に体験した話です。
旅行のルールとして、学生でお金に余裕がありませんでしたので、なるべく費用がかからない場所へ出向いて1泊をします。
宿は予約などせずに、現地で見つけたラブホテルか旅館へ素泊まりです。
この何が起きるか分からない感じがまた、たまりません。
都心から離れた地域の長く延びる国道を通って、その通り沿いにある滝を見学。素晴らしい眺めで心が洗われるようでした。
滝の上には広めの駐車場があり、そこの休息所で何気なく会話したタクシーのおじさんから、良い情報を聞きました。
「ここらには旧道というのがあるんだよ。そっちもすごく綺麗だから、良かったら通ってみるといいよ。」
教わった道を探して突き進むと、日が暮れました。
そこで適当に発見した宿へ、私達は泊まる事にしたんです。
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その宿は本館と別館みたいに建物が分かれていて、2つが通路で結ばれていました。
いつものように予約なしの素泊まりでお願いしましたから、空室の都合で私と彼女は古めの建物の方へ通されます。
部屋は廊下の突き当りにありました。
隣の部屋はずいぶん離れた奥にあるそうで、面白いと言いますか変わった造りだなと思いました。
彼女は
「きっと後から増築したからこうなったんじゃないかなぁ。」
なんて言うので、まぁそれはあるなと納得しました。
そして夜になり部屋でくつろいでいると、どこからか物音や話し声みたいなのがずっと聞こえています。
耳を澄まして音源を辿ると、どうやら隣の部屋から音がしているようです。
旅館ですから、他の客もいるので音がするのは当然です。
なので最初はあまり気にしないでいたのですが、途中である事に気付きました。
私達の部屋の隣は遠くにあるんじゃなかったっけ、と思い出したのです。
彼女も異変に気付きましたが、確認するのも怖いですし、隣じゃなくて上からの音ではないかと言い聞かせるようにして、私達は眠りました。
朝になって、窓から外の景色を見た私達は驚きました。
私達の部屋の隣の外壁に、もうひとつ扉窓があるのです。
カーテンは閉じられていて、箪笥でも置いてあるのか形が変形しています。
カーテンの色は日焼けして酷く色あせており、長い間放置されているのだと推測出来ました。
ところが旅館に入って廊下を確認しても、その部屋に入れるようなドアが1つも在りません。
彼女と「おかしな造りだね…。」と話をして、私はその部屋に近い壁をドンと叩いてみました。
するとその壁の向こうから
ドンッ!
音が返ってきたのです。
怖くなった私達は、逃げるようにその旅館からチェックアウトしました。
あの部屋は何故ドアが無かったのでしょうか。
いや、きっとどこからか入る事ができて、中に人が居たのです。
そう信じたいです。
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