恐怖の泉

人間の怖い話「私の自慢話」

私はごく平凡で、全く何の取り柄もない一般人です。
これはそんな私のつまらない話です。
突然ですが、皆さんが一番輝いていた時期っていつでしょうか?
私の場合は、早熟と思われるかもしれませんが中学校の時でした。

当時、私が通っていた中学校は歴代最悪と言われるまで荒れ果てていた事で有名でした。
不良グループが先陣で異常なまでに荒れていたのはありますが、それに引っ張られてか学年全体で荒れており、クラスに1つはイジメがあるなんて普通な状態。
とにかく倫理観の低い世代だったのです。

そんな私達の学年でいつしか流行していた遊びが「万引き」でした。

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全員とは言わないまでも、万引きは皆が当たり前のように行っておりました。
お金が無い訳ではありません。盗れるのに何でわざわざ買うの?といった間違った認識が広まっていたのです。
どれだけ万引きしたのかはステータスにもなり、友達間のマウントにも利用されている始末でした。

自分で言うのもあれですが、そんな中でも私の万引きは一目置かれていました。
ためらい無く、当然のように万引きをして仲間にも分け与える。その度に「スゲー!」と賞賛される様は、何とも言えない快感が伴いました。
「あいつはぶっ飛んでいる」という評判も、荒れた集団では勲章のような物だったのです。

そんなある日、完全に調子に乗っていた私は誰もマネ出来ない事をしようと企みます。
修学旅行で使うボストンバッグってあるじゃないですか。あれいっぱいに商品をぎれば、それはスゴい事になるだろう。そう思ったのです。
そして私は、目をつけていたとある店の商品を、一緒に居た仲間の目の前で大胆にバッグへ放り込み、前代未聞の万引きを実行しました。

そりゃもう仲間からは絶賛されました。
「あんな事するヤツはお前だけだ」
自分が仲間内で主役のネタになるのは、経験した事のある方なら分かると思うのですが、病み付きになるんです。
やった事は犯罪ですが、それでも勉強も出来ず運動もダメで何の特技も無い私にとっては、自慢だと思っていました。

それからほどなくして、私が万引きをした店が潰れました。

「お前が万引きし過ぎたんじゃね?」
冗談か本気か分かりませんが、仲間からはそう言われました。
私はこの頃から、常に心へ消えないモヤモヤを抱えてたように思います。

私の万引きは罪に問われず、そのまま大人になりました。
とある小売店に就職した私は、そこで思わぬ出来事に悩まされます。
それは「万引き」でした。

当たり前ですが、万引きや盗難は小売店にとって大きな痛手です。
売上はゼロではなく、マイナスまで落ち込みます。
お店の商品の値段には利益の他にも、仕入れ値、生産の原価、配送料、その商品に関わった方々の賃金…。
多くの要素が積み重なっています。
万引きをされると、それが全て水の泡になるどころか、その商品が店頭に並ぶまでに皆が費やした時間までもが無駄になってしまうのです。
当然で当たり前なのですが、恥ずかしながら私は大人になって、働いてみて気がつきました。

私が中学の頃、万引きした店は潰れました。
ひょっとして私はとんでもない事をしてしまったのではないかと思う時があります。
友達はあの時、どうして誰も止めてくれなかったのか。
いっその事、私を逮捕してくれればあんな事態にはならなかったんじゃないか。
罪を償おうにもどうすれば良いのか、でも罪を償ったら自分はどうなってしまうのか…。
考えれば考える程、動悸がして吐き気と目眩に襲われる体になってしまいました。

万引きの罪は消えないですが、かといってこれが無ければ私が目立ったり楽しい時を過ごす事が無かったのも事実です。
もし過去へ戻れたとして、過去の自分にこの苦しみを伝えたとしても、当時の私は理解できないと思います。

自業自得ではあるのですが、生きていくのが辛いです。

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