恐怖の泉

インターネットの怖い話「パワーストーン」

当時35歳。桜田さんはある休日パワーストーンを買いに行ったという。主婦仲間の間で流行っていたからだ。
主婦仲間が購入したという店に行くと数々のパワーストーンがありどれを買えば良いかわからなかったので「健康運アップ」との煽り文句の石を買おうとすると店員に「実はかなり珍しい石が入りまして」と言われたという。
店員がカウンターの奥から出してきた石は紫色に光り「ちょっと高いですが全然他の石と違いますから」と熱心に店員が奨めてくるので桜田さんはそれを購入したという。本人曰く「見栄っ張りなところがあるんです」との事だ。

店員にその石をブレスレットにしてもらい支払いを済ませて身につけて夕食の買い物をしようと桜田さんはスーパーに向かったそうだ。
スーパーへの道中、道で笠をかぶった僧侶が目に入った。薄汚れた身なりでお経を唱えていたという。
僧侶は公衆便所に向けてお経を唱えていたという。異様な光景だった。なんとなく距離をあけて桜田さんが僧侶の横を通り過ぎようとした時にお経を唱える声が止まった。
「そこのあなた」僧侶が桜田さんに声をかけた。驚きながらも桜田さんが僧侶の顔を見た。目がほとんど開いておらず開いている目も白く盲目の僧侶に桜田さんには見えた。
「はい…」桜田さんが恐る恐る返事をすると僧侶は「あなたの腕に巻いているもの。よくないものです」と表情を変えずに言った。
「それはよくないもの」桜田さんは「目が見えるのかな」と思いながらも「よくないってどういう意味ですか?」と僧侶にまた尋ねると「見てみなさい」と僧侶はまた表情を変えずに言った。
その瞬間、桜田さんの右手に激痛が走った。パワーストーンを巻いている手首だ。慌てて桜田さんは手首を見た。
するとそこにはパワーストーンではなくムカデが巻きついていた。二匹のムカデがお互いを噛み合いながら蠢いていたという。
「ひいっ」桜田さんが悲鳴をあげると僧侶が鈴を鳴らした。「チーン」。その音が鳴ったと同時にムカデは手首から解け地面に落ち、ぬらぬらと這いながら二匹で固まるように下水道に落ちたという。
桜田さんが呆気に取られていると僧侶は一本の数珠を懐から出して赤坂さんに渡した。「これを一ヶ月の間つけておきなさい」と言ったという。
桜田さんは目の前で起きた事の恐怖から僧侶の言う事をきくしかないなと思った。僧侶は「肌身離さずつけなさい」と言うと赤坂さんとすれ違う形で去って行った。横を通る時に「肌身離さずつけないと手首が落ちますよ」と呟いたという。

桜田さんはそれから僧侶の言う事をきいて肌身離さずその数珠を身につけたという。一週間経ち二週間経ち三週間経っても特に異変は起こらなかった。
そして僧侶から数珠を受け取ってちょうど一ヶ月経ったその日、桜田さんは自宅にいた。娘が風邪をひいて学校を休んでいたので看病がてら横で添い寝していた桜田さんはそのまま寝てしまった。桜田さんは夢を見た。

暗い部屋で桜田さんは正座していた。板の間で空気がひんやりしている。目の前に背中が見える。袈裟を着た僧侶の様だ。前屈みで桜田さんから見ると背中を丸めて呻っている。「グゥ…グゥ…」と。
しばらくすると僧侶がゆっくり振り返った。「あの数珠をくれた僧侶だ」桜田さんは思った。僧侶は壺を手に持っていた。壺の中でムカデが蠢いている。僧侶の目にもムカデが蠢き、出たり入ったりを繰り返している。
すると僧侶が壺に手を突っ込み大量のムカデを掴んで桜田さんに差し出す。「ウグゥ…ウグゥ…」と呻りながら。桜田さんが後ずさりした瞬間、僧侶の口が開いた。何十何百大量のムカデが滝のように床に流れ出した。
その瞬間「お母さん!」と娘の呼ぶ声が聞こえた。桜田さんが目を覚ますと横にいた娘がいない。声は庭の方から聞こえた。慌てた桜田さんは庭に裸足で飛び出した。その時「チーン」というあの僧侶の鳴らした鈴の音が聞こえた。

その瞬間、屋根から雨よけのトタン板が落ちてきた。桜田さんの手首に当たると手首から先が巻いている数珠と共に地面に落ちた。
桜田さん曰く瞬間的に「全ての角度、タイミングが合わさった感じだな」とその時思ったそうだ。漠然と。「見事に切れるものだなぁ」と感心すらする程に。
その後呆然と自分の落ちた手首と数珠を見ていると自分の愛娘が何処からか現れたという。ゆっくりと桜田さんの手首を掴むと桜田さんの顔の前に差し出し「よくないもの」と呟いたそうだ。
娘の目はほとんど開いておらず開いた目も濁った白目でまるであの僧侶のようだったという。

トタン板の落ちる音で異変に気づいた隣近所の通報で救急車が呼ばれ桜田さんは病院に搬送された。手首から先をくっつける手術をしたが結果的には腐り落ちてしまったという。
術後入院していた桜田さんが退院して家に帰るとあの数珠がテーブルの上に置いてあった。本人は全く記憶に無いが事故のショックから高熱を出していた時に旦那さんに「あの数珠は棄てないで」とうわ言で懇願していたそうだ。

桜田さんはこの数珠をどうすればよいかと悩んでいた。人に話した話が世話好きなある主婦に伝わり「そういうのに詳しい人がいるから」と隣の県のあるお寺の住職を紹介されたという。
その住職を訪ねてこれまでの経緯を話した。住職は「なるほど」と話を聞いていたがふいに「ちょっと勘違いをなさっておられますな」と呟いた。
住職の話を要約すると「最初に買ったそのパワーストーンは単なる石である。この数珠は数珠に見えるが数珠ではない。何かは知らないほうがいい。その盲目の僧侶は元は僧侶ではあるが今は僧侶では無い。宗派が違うからこれ以上は言えない」との事だったという。
「とにかくこれはわたしが処理しておきますから」という住職の言葉を聞いて桜田さんは寺を後にしたという。

その後桜田さんは旦那さんと離婚をしている。理由は詳しく教えてくれなかったが桜田さんの奇行が原因のようだ。現在桜田さんは娘さんと2人で暮らしている。
気掛かりなのは娘さんの視力があの一件以来どんどん落ちていっている事だそうだ。医者に聞いても明確な原因はわからないらしい。

話の最後に桜田さんに「ムカデがたくさん取れるとこ知らないですか?」と尋ねられた「なんか知ってそうだから」と、知ってそうというのもよくわからないが「わかりません」と答えた。「客にも聞くんだけどみんな知らないのよね」と桜田さんは言った。
余談だが桜田さんは現在いわゆるピンサロ嬢の仕事をしている。「店が暗いから案外手の事にみんな気づかないのよ」との事だ。
帰り際「娘より大事なものは私にはないから」と桜田さんは誰に言うわけでもなく呟いた。

桜田さんと別れた帰り道、手首につけていたパワーストーンが無くなっている事に気づいた。どうせコンビニのゴミ箱にでも棄てようと思っていたのでちょうど良かった。
帰りの電車に乗っていると「チーン」と鈴の音が聞こえた気がしたのでiPodのイヤホンを耳に入れ大音量で音楽を流した。
僕にも桜田さんほどじゃなくても大事なものがあるんです。多分この話を読んだあなたにも。

引用元:Twitterアカウント「蛇囚人」のツイートより


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