恐怖の泉

実話系・怖い話「住人の忘れ物」

私はアパート等の空室を、次に入居される方のために掃除する家業をしています。
この時も普段通り、依頼があって入居前の部屋へ行きました。

そこは1DKの物件で、前住人が長い期間居住していた割には綺麗で、掃除も楽な所でした。
夕方5時頃に仕上げて最後の点検をしていると、靴箱の上の天袋が少し開いていて何かが見えたのです。
中を確認してみると、縄のような物と文字が書かれたお札、穴がある古銭がバラバラと出てきました。

「え?なぜこんな場所に?」
疑問を抱えながら全て取り出すと、小さなダンボール1箱分にもなりました。
一緒に掃除をしていたメンバーも
「何かのまじないかなぁ。」
と、不審そうに見ています。

とりあえず私は不動産屋に写真付きで「忘れ物がありました」とだけ連絡し、物は自分の倉庫へ保管しておきました。

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その後これといった進展もないまま、その部屋のことはすっかり忘れていました。
ところが数週間後、転居後の掃除の依頼があって向かうと、同じ部屋だったんです。
つい最近自分が手掛けた部屋ですからまだ綺麗な状態で、掃除はあっという間に終わりました。

「なにかありましたか?」
気になった私は不動産屋の担当に尋ねてみると、思わぬ返答がありました。
「まぁ幽霊が出たとかなんとか。そんなこと今まで無かった物件なのにさ。クレームをつけて、家賃も踏み倒して慌てて出て行ったんだ。」
そう渋い顔で話していました。

私も仕事柄そういった話を耳にはしていましたが、自分の案件で起きたのは初めてです。
正直気味が悪かったですが、仕事ですので断る事も出来ません。
手早く後片付けをして、私達は足早に次の仕事場へ移動しました。

それから程なく、また同じ不動産屋から電話が入りました。
「また幽霊だってよ。」
吐き捨てるように言って電話は切れ、私達も気乗りしないまま部屋へ向かいます。

案の定、部屋は綺麗なままで掃除もほぼ必要ない状態です。
一体何なのだろうと考えていると、私はあの忘れ物を思い出しました。

「そういえばこの部屋、忘れ物があって報告していましたが…その後どうしたんです?」
「あ~。連絡したんですけど、必要な物は手元に揃っているので処分して下さい、って言われたんですよね。」
直感ではありますが、その忘れ物が原因だと判断した私は
「もう一度、前の住人と話をして説明した方が良いのでは?」
と提案し、電話で連絡してもらいました。

詳しく説明すると、その住人は「それは私の先祖だ」と言っていました。
昔から自分に憑いているが、これといった影響も無いので、天袋に入れたまますっかり忘れてしまっていたのだとか。

「悪い者じゃありませんから、お気になさらないで下さい。」
「そう言われましても、こちらとしては困ります。なんとかなりませんか。」
「お札と古銭がないと、どうにも…。私ももう要らないと思っていたので。そちらでは処分してしまったんですよね。」
そのやり取りを聞いて、私は話に割って入りました。
「全て、まだ倉庫に有りますよ!」

処分に困っていた私としても、持ち主に返却できるのは願ったり叶ったりでした。
こうして部屋に出ていた幽霊もいなくなり、今では何事もなく使用されているようです。

転居なさる際は、忘れ物がないか十分にご確認下さい。

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