後味の良い怖い話「命を救った何か」
私は昔、職場でパワハラをされて誰にも相談することが出来ず、モヤモヤした日々を送っていた時期がありました。
「これも仕事だから。」
そう自分に言い聞かせ、何とか割り切ろうと必死だったように思います。
しかしそんな綱渡りな状況ですから、転落するのも一瞬でした。
ある日突然、糸が切れたように私の中で何かが壊れ、何も考えられなくなりました。
その日は、どうやって自宅へ帰り着いたかさえも記憶にありません。
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帰宅して、思い切って両親に相談をしてみました。
返って来た言葉は
「仕事は忍耐だ。」「継続する事に意味がある。」
諦める事は逃げる事、逃げるは恥と信じ切っている両親は、私の考えを聞くどころか頑張りを押し付けてきます。
もう寝る時間となりましたが、私は眠る事が出来ませんでした。
ベッドから起き上がった私は無性に虚しくなり、「死んじゃおっかな」とふと思いました。
「そうだ、それが良い。」
全てを終わらせようと考えると、不思議と妙に安心した気持ちになったのです。
どうやって死ぬのが一番なのか。
あれこれ考えた末に私が出した結論は、ダムに飛び込む、というものでした。
そう思うと居ても立っても居られなくなった私は、自分の車を走らせました。
私が向かった所は、自宅から車で1時間ほどの場所にあるダムでした。
街灯も無い真っ暗な山道を、私は1人でラジオすらつけず、無音で車を走らせます。
怖がりで、しかも私は運転が苦手なタイプですので、今振り返ると絶対に有り得ない状況でしたが、その時は全く何も感じていませんでした。
やはり極度のストレスに晒され、心が正常ではなかったのでしょう。
目的地のダムが目の前に見えてきました。
駐車スペースに車を停めると、私は迷う事なくすぐにダムへ向かって歩き出します。
橋の途中で立ち止まり下を覗くと、そこにはただ闇が広がっていました。
ですがその闇が、私を全て受け止めてくれるんだ、と思うと愛おしさすら感じるのです。
橋の側面を掴み、グッと力を込めて乗り越えようとした瞬間でした。
私の着ていたパーカーの首の所を引っ張られ、私はそのまま尻もちをついてしまったのです。
突然の出来事に驚いて辺りを見渡しましたが、月明かりでうっすら見える周囲には当然、誰一人居ません。
あれ…と思って自分の首を触ると、パーカーの首部分が氷水をかけられたように冷たく濡れていたのです。
ここでハッと我に帰った私は、恐怖でガタガタ震えながらも車へ戻り、なんとか自宅まで帰り着きました。
その後は疲れたのか、ベッドに潜り込むといつの間にか朝を迎えていました。
数日ほど、私はこの夜の出来事を反芻していました。
結果的にはあの夜、私の命は何者かに救われていたのです。
あそこで引っ張られなければ、私は確実に身を投げていました。
それから私は仕事を辞め、ストレスを溜め込まないという選択が出来るようになりました。
後にそのダムは「出る」所として有名な場所だと分かり、今でも怖がりで幽霊の類は苦手な私ではありますが…
ちょっとだけ怖いだけじゃなく、親近感のようなものも感じています。
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