恐怖の泉

人間の怖い話「まねっこママ友」

これは私が結婚して5年目、子供が幼稚園に入った頃の話です。

住み慣れた地元を離れて生活していた私は、身近に親しい友人がおらず不安でした。
誰か仲良くしてくれて、同じような話題がある人がいれば心強いのに。
そう思って日々を過ごしていました。

そんな時に、子供と同じ幼稚園に通っていたママと知り合いになる事が出来たのです。
そのママも地元が遠く、今は友達がいないという境遇が似ており、私とすぐに意気投合しました。
子供どうしが遊んでいる間に仲が深まり、次第にお互いのプライベートを共有する程までになったのです。

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最初は願いが叶って友人が出来たと喜んだ私でしたが、だんだんとそのママ友のある部分が気になり始めます。
何でも私の「まね」をしてくるのです。

例えば、私がある服を買えば全く一緒の服を買ったり、家族でどこどこへ行ったよと言えば、すぐさま同じ所へと足を運ぶといった感じで…。
最初は気にしないでいたのですが、あまりにもまねするもので、私はちょっと気味が悪くなっていったのです。

そしてある日。
いつものようにお茶をする約束をしたカフェに、そのママ友が私と全く同じ格好で現れました。
同じ物を身に着けるというのは親愛の印、と言えば響きは良いのでしょうが、私はその姿を見て思わず鳥肌が立っていました。

「ねぇ、今日は私の家に来ない?この前はあなたの家に行ったから、今度はあなたが来る番!」
ママ友の無邪気な笑顔に断る事も出来ず、誘われるままカフェから自宅へ移動します。
ところが彼女の家へ入った瞬間、思わぬ光景が目に飛び込んできました。

私の自宅と同じ家具の配置、模様、家具の色…。
まるで我家かと見間違う程に、彼女の家は私の家と同じでした。

同じマンション団地に住んでいますから、部屋の間取りが一緒なのは仕方ありません。
ですが中身までも、こんなにまで同じにするなんて信じられません。
「どうぞ~入ってくつろいでね~。」
なんて言われても、この異様な光景に落ち着くはずもありません。
用事ができたとうまく誤魔化した私は、早めに帰宅したのでした。

それから、そのママ友とはできるだけ関わらないように努めました。
仕事を始めて、公園で遊ぶのも避けて、その代わり子供は習い事へ通わせることにしたのです。
急に距離を取ったので悪い事をした感じもあったのですが、そんな私の気持ちはあえなく吹き飛びます。

どこで情報を聞きつけたのか、まねっこママ友の子供も同じ習い事に入っていました。
平然と「久しぶり~。偶然一緒だね!」と話かけてくる彼女に、私は言いようのない恐怖を覚えます。
このままでは何かが起きそうな気がするという不安があるものの、一応仲良しママ友ではありますから、事態をあまり大袈裟にするのも憚られました。

その後、夫に「部屋が狭くない?」とうまく相談して、引越す事にしました。
もちろん、まねっこママには知られないように誰にも話さないで、およそ1ヶ月程で実際に引越し完了です。
前に住んでいた所からは車で15分くらいの距離でしたが、まねっこママ友との関係は断つ事が出来、しばらくは平穏な日々が続きました。

ピンポーン

休日に誰かが家を訪ねて来たので、ろくに確認もせず玄関を開けた私は腰を抜かしそうになりました。
そこにはまねっこママ友が居たのです。
「何故ここにいるの?」
動揺を隠せないまま私が尋ねると、彼女は
「たまたま空いている良い物件があったから、引越ししたの。ここで会うなんて偶然ね。また仲良くしてねぇ。」
と満面の笑みで挨拶してきます。

こんな偶然など在るはずがありません。
彼女は私を追って、ここまで引越ししてきたのだと思わずにはいられませんでした。
このままここに住めば、子供が小学校へ入学して容易に逃げる事が出来ません。
ですが子供の入学まで残り僅か。どうしようかと考えている間にも、毎日まねっこママ友から誘いがあり、体調が悪いと断り続けていたのも限界に近づいていました。

ここで運良く、夫が海外へ2年ほど転勤になるという話が舞い込みました。
私はまねっこママ友から逃れるためにも、思い切って海外へ行く決断をしました。
まねっこママ友は、流石に海外まではついてきませんでした。

2年で帰国した私達は、今では違う県へ転居して生活しています。
この件に関して、私が気にし過ぎなだけかなと思う時もありますが、あの時感じていた心のざわつきが無くなっただけでも良かったのだと、自分で納得するようにしています。

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