恐怖の泉

後味の良い怖い話「赤い服の恩人」

私は恐らく幽霊を見た事があるのですが、自分でも信じられず、ただの見間違いではないかと言われれば言い返すこともできません。
それでも私が見たありのままの事実を、お話ししたいと思います。

当時、私は娘のAと一緒に近所の公園で遊ぶのが日課となっていました。
その町に来てから4年ほどしか経っていませんでしたが、夫の話では10年ほど前から急速に進んだ都市計画により、多くのマンションが立ち並ぶ地域となったのだそうです。

娘との公園遊びは楽しいものでしたが、同時に不安がありました。
というのもここ1ヶ月くらい、近くのマンションの一室から私と同じくらいの歳の女性が、公園の様子をずっと眺めている事に気づいたからなのです。
女性は赤い服を着ていたので、見られていると嫌でも目につきます。

夫にそのことを話したのですが、「気にし過ぎだよ」と言われるだけで相手にもされません。
実際、その赤い服の女性は景色をただ見ているだけなのかもしれません。
ですがそれが丁度、私達が公園に居る時間と同じだということに、妙な胸騒ぎを感じていました。

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そんなある日、いつものように公園へ行きマンションを見上げると、赤い服の女性はいませんでした。
ホッとしつつも警戒を怠らずにいると、いつも女性がいる部屋に紺色の服を着た、若い女性が動いている姿が見えます。
なぜ違う人がいるのだろうと思っていると、その紺色の服を着た女性がマンションから出てきて、こちらに向かって歩いてくるのが見えました。
どうしても気になった私は、娘の安全を横目で確認しつつ、公園近くに寄った彼女へ思い切って声を掛けてみました。

冷静になって振り返ると、私は彼女にとって不審者そのものだったかもしれません。
駆け足で乱れた呼吸のまま「すいません」といって呼び止めると、彼女は面食らったような顔で振り向き立ち止まりました。

話を聞いてみると、その方は部屋に住んでいる女性と同じ会社で働いている後輩だと言います。
「最近1ヶ月くらい、部屋からその先輩が赤い服を着て私達の事を見てくるのですが…なぜ見てくるのか、心当たりありませんか?」
私は率直に疑問を投げかけました。
すると思いがけない言葉が返ってきたのです。

「先輩は、1ヶ月前くらいに部屋で首吊り自殺をして…亡くなったんですよ。」

その先輩は、1年ほど前に参加した婚活パーティで知り合った男性と良い仲になったそうなのです。
ところが突然相手から振られてしまい、覇気が無くなってみるみる痩せ細っていき、ついには仕事にも来なくなってしまったといいます。
先輩は身内もおらず連絡もとれない為、心配した会社の方が部屋を訪ねて鍵を開けると、彼女の遺体を発見したのでした。
今日来たのは、立ち退きや葬儀等の打ち合わせがあったようです。

それを聞いて、私はおかしな点に気づきます。
私が見た赤い服の女性は、部屋で人知れず亡くなっていた。
先輩は、間取り的に窓から見えない位置で首を吊っていたそうです。
では、私が見た赤い服を着た女性は一体…?
赤いワンピースは、先輩のお気に入りの服だったと、後輩の方は言っていました。
不可解な状況に、私の頭は混乱します。

するとその時、急に娘の悲鳴が聞こえ我に返りました。
娘の方を見ると、滑り台の頂上の柵から身を乗り出し、今まさに頭から転落しようとしている瞬間でした。

私は大声をあげて駆け寄るのが精一杯。
娘の近くには誰もおらず、絶望的な状況です。
「あ~!誰か助けて!」
そう強く念じた瞬間、私は見たのです。

娘の頭が地面に着こうかという直前、突然パッと赤い服の女性が現れ、娘を抱きしめて地面へ横に降ろしました。

娘は何が起きたのか分からない様子できょとんと座っています。
私は娘を抱きしめ、傍に立つ赤い服の女性へ「ありがとうございます!」とお礼を言うと、その女性はにっこりと微笑みながら消えてしまいました。

この様子は後輩の方も見えていたようで
「先輩、子供好きだったから…。」
と、涙ながらに話していました。

その後、行われた先輩の葬儀には家族で参加しました。
全く縁も所縁もない私達ではありましたが、お礼を言わずにはいられなかったのです。

その後は二度と、赤い服の女性を見る事はありませんでした。
娘を助けてくれた恩人ですから、きっと天国で幸せになっているのだと、私は信じています。

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