恐怖の泉

後味の良い怖い話「手を引く子供」

夫と私は学生時代に出会って、結婚したのは25歳の時です。
同い年でお互いに頑固なものですから、今も昔も喧嘩が絶えませんが、そこそこうまくやってはいると思います。
これはそんな私が、夫との結婚を決めるきっかけになった出来事です。

その晩、お腹が痛かった私はやっと会社から帰ると、着替えもせずクッションを枕代わりにして休んでいました。
30分くらいすると、彼も帰ってきました。
結婚はまだしていませんでしたが、私達は当時、同棲していたのです。

「あれ、寝てたの?ご飯は?」
しばらく険しい顔で彼は私を見下ろしていましたが、何も答えない私をまたいで着替え、そのままどこかへ出て行ってしまいました。

どこかへ外食にでも行ったのでしょうか。
一言くらい、優しい言葉をかけて欲しかった。
具合が悪いのだと、見て分かるでしょうに。
起き上がるとお腹の痛みは軽くなっていましたが、それ以上に悲しみが辛く感じました。

都会の生活にも、彼との生活にも疲れた。もういい、実家へ帰ろう。
衝動的になった私は、必要最低限の荷物だけを持って駅に向かいました。

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バスの最終便まであと30分。
近道の神社を通れば、15分で着く。
石の階段を上って境内を横切り、また石の階段を下れば駅です。

神社はお祭りだったようで、多くの人や夜店で賑わっていました。
足早にその間を通り過ぎようとした時、手をグッと誰かに掴まれました。
振り返ると、そこには浴衣を着た女の子と男の子が居たのです。
歳は女の子で5歳、男の子も3歳ほどでしょうか。
当然、私とは面識もない子です。

そこからの記憶はハッキリとはしないのですが、子供に手を引かれるまま歩くと、見た事もない場所へ紛れ込んでいました。
暗闇の中、樹木の間を通過してゆきます。
木にはよく見るとカラスが集団で居て、目が合うと威嚇なのか羽を広げて鳴き声をあげてきます。

「おーい、大丈夫か?まだ具合悪い?」
体を揺さぶられて起きると、目の前には彼がいました。
いつの間にか、私は公園のベンチに居たのです。

夫は買い物をして戻ると、私が部屋にいないので慌てて探したそうです。
幸いにも近くの公園だったのですぐ発見出来たと、息も絶え絶えに言います。
手にはコンビニの袋を持っていました。

「病気なんてしないからビックリしちゃったよ。」
袋の中には、栄養ドリンク、風邪薬、冷感枕、胃腸薬、お弁当、レトルトのお粥が入っていました。
「会話って大事だね。」
「お互いにね。」
こうして誤解が解けた私達はその後しばらくして結婚し、私と夫の間には女の子と男の子が産まれました。

そしてこの子達なのですが…神社の境内で私の手を引っ張ったあの子供と、瓜二つなんですよね。
まさか将来産まれる自分の子供が、私と夫の仲を取り持ったとでもいうのでしょうか。
私の単なる記憶違いだと思いたいのですが、どこか運命的な縁も感じてしまう体験でした。

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