恐怖の泉

人間の怖い話「私を知る少女」

これは私が幼い頃に体験した出来事です。

当時、小学校低学年だった私は、母親と一緒に近所の大型スーパーへ買物に行くのが何よりも楽しみでした。
目的はゲームコーナーで、母親が買い出し中はずっとそこで遊んでいたものです。
その頃は子供が1人で遊んでいても、あまりとやかく騒がれない時代でした。

ゲームコーナーとは言っても、子供用の車等の乗り物が何台もある程度。確か50円か100円を入れると5分ぐらい揺れたりして、まるで本当の運転しているようで大のお気に入りでした。

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その日もいつも通り、ゲームコーナーに訪れて乗り物で遊ぼうとしたら、見知らぬ女児から声を掛けられました。

「○○君だよね。いつもここで遊んでいるよね。」

声を掛けられた私は、キョトンとしてしまいました。
恐らく当時の私と同い年ぐらいの女の子だと思うのですが、顔を見るのは初めての相手です。
何より、なぜ自分の名前を知っているのか理解できなかったからです。

知らない相手ですから、私は曖昧な返事で半分無視をして遊ぼうと考えます。すると彼女は
「▲▲学校に行っているよね?」
「×年生だよね?」
と、どこで調べたのか私の個人情報を次々と的中させていきます。
初対面とはいえ、これを笑顔で親しみのある表情で話してくれるなら、私も相手になる気が起きるものです。
ですが彼女は、子供なのに覇気が感じられず、私をからかっているように言葉を発するのです。
ムッとしてしまった私は遊ぶのを止めて、母親の元に逃げ込みました。

その後、あの女の子は何だったのかと頭から離れませんでしたが、母親に相談する程でもなかったので、スーパーに行かなければ良いかなくらいにしか思っていませんでした。

私が母親とスーパーに行かなくなって、数ヶ月後くらいでしょうか。
久しぶりに祖母が我家へ遊びにやってきて、私の好きなゲームコーナーに連れて行ってくれる事になったのです。
女の子の存在など忘れかけていましたから、喜んで祖母と外出します。
久しぶりのゲームコーナーはやはり面白く、しかも母親の場合と違って祖母は何度も課金してくれるので私のテンションは上がり、夢中になって遊びました。
祖母はそんな私を見守っていたのですが、途中で「ちょっと行くから」と離れた時でした。
どこかで私が1人になるのを見計らっていたのか、あの女の子がいつの間にかゲームコーナーに居たのです。

今度は私に声をかけることも無く、じっと見つめてきます。
その様子に、私は遊ぶどころではありません。

そのうち祖母が戻ってきたので、場所を変えなければと思った私はジュースをせがみ、移動します。
もう今日の遊びは終わりか…などと考えながら祖母とジュースを飲んでいると、突然あの女の子が目の前に現れました。

「あれ?いつもはジュースを飲まないよね。どうして今日はお母さんがいないの?」

一体この女の子は誰なのでしょうか。
祖母が私に「友達なの?」と訊ねてきましたが、知らないと答えた私は祖母の手を引き、足早に帰宅します。
言いようのない不快感から、もう二度とスーパーへは行かない。私はそう決めました。

ところがそれからしばらく経った後の事です。
学校が終わって私が帰宅すると、なんとあの子が家の前に居るではありませんか。
あの冷たい独特の目線は、私に警戒感を出させます。
気付かないフリをして自宅に逃げ込もうとすると
「どうして▲▲(スーパーの名前です)に来ないの?」
「私が嫌いなの?」
等と、否応なしに質問を浴びせてきます。

久しぶりに見た彼女の表情は以前よりも更に生気が感じられず、不気味というより他ありません。
とにかく無視を続けて家へ逃げ込みましたが、母子家庭な身の私は1人で親が帰宅するまで耐え続けます。
流石に異常だと思った私はその日の夜に彼女の存在を母親に伝えたのですが、あまり良い返事がありません。
それどころか「友達になりたいだけじゃないの?男の子なんだからしっかりしなさい。」と、喝を入れられる始末です。
腑に落ちませんでしたが、私は会わなければ良いのだろうと結論を出します。
女の子の姿はそれから何度も見かけましたが、急いで逃げ出すなり回避を続けるうちに出会う頻度が減っていき、次第に存在すら忘れかけていました。

時が飛んで、私がもう大人になった頃、母と離婚していた父の葬儀に私だけが出席する事となりました。
そこで受付で名前を書いて参列しようとした所で、見覚えのある姿を発見しました。
すっかり大人になっていましたが、あの視線や覇気の無さは間違いなくあの女の子でした。
ただ当時と違ったのは私には一切目線すら送らず、ずっと上の空な感じです。
とてもではありませんが、声をかけられる状況ではありませんでした。

後に親族や母親から聞いてみると、少女は父の再婚相手の子供でした。
だから私の名前やあれこれを知っていたのだと思います。
きっとお酒に溺れた父が、飲んだ勢いで色々話したのではと推測できます。

彼女は私に何が言いたかったのでしょうか。
本当に友達になりたかっただけなのか?ひょっとして助けを求めていた?
現在は私も亡くなった父と同年代になりました。
母親は既に亡くなり、父の再婚相手の女性も亡くなったと噂で聞いています。

真相が気になるのならば、あの女の子と会って会話出来るのかもしれませんが…きっと知らない方が良い事もあるんだろうなと、勝手に納得して今日に至ります。

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