恐怖の泉

実話系・怖い話「1人の夜の異変」

1人の夜は怖くて、自宅であっても気味が悪く感じる事があります。
子供は怖がるので、こういった話は避けるよう努めてきました。

その夜は家族がたまたま誰も帰らず外泊でした。1年に1度あるかないかのタイミングです。
夕方に早々と食事とお風呂を済ませ、私は寝室でテレビを観ていました。

トン、トン、トン…

不意に軽い足取りで、階段を下りる足音がしました。
体が緊張で強張ります。
誰もいないはずなのに!

心臓の鼓動が激しくなるのを無理やり落ち着かせます。
子供じゃあるまいし、なにを慌てて!
どうせ空耳だと自分に言い聞かせます。
足音は階段の途中で止まったきり。上に戻るのか、このまま下に下りるのか…。

気にしてはいけない、聞かなければ良いのだと思って、私はスマホのイヤホンを耳に刺してお笑い番組を見始めます。
それでも家鳴りはイヤホンを通して聞こえます。
木造の家屋ですから、家鳴りは当たり前のことです。

天井からダン!と重たいものが落ちたような音がしました。背中に汗がにじみます。
天井の家鳴りは、普段からよく聞こえます。大した事じゃない。
びくびくしながらトイレを済ませ、早々とベッドに入りました。
部屋を暗くしないと眠れませんが、明かりを消すのは怖いのです。

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結局寝れず、私は不安を取り除くために意を決してベッドから起き上がり、階段のライトを点けました。
階段の中ほどには、黒い人影が居ました。

影は、家の裏の戸建て住宅に1人で暮らしていた男性でした。
彼は姉により変死体で発見されていました。自殺ということになっています。
近所に親戚もいますし、私とは関わりがなかったのですが…なぜここに来たのでしょうか。

叫んだところで、この家には誰もいません。
ところがその時、私は不思議に落ちついていました。
何故か分かりませんが、人影の正体を確認したら怖く感じなくなったのです。

彼をしばらく見ていましたが、ただうずくまっているだけです。
まぁ良いかと思って電気を消し、ベッドに入ると朝までぐっすり安眠しました。

翌朝、娘が朝に帰って、夫は昼頃帰って来ました。
夕食を食べ終えて片付けをしながら昨晩の事を思っていた私は、話題がてら気軽に口を開きました。

「そろそろ引っ越さない?」
「なんだよ、突然。」
夫は言い終えた後、理解したのか怯えた顔をしました。
「話さなくていい。なんか出たのか?いい、話さなくてもいいから。今度のボーナスで引っ越そう。」

私を1番理解してくれているのは夫です。私が見えると告白したら、意外にも信じてくれました。
夫は見えないが故、話を聞くと想像が膨らみ怖くなるといつも言っています。

「ねぇ、この家なにがいると思う?」
「いいから、話さないで。前からおかしなとは思っていたんだ。君が話さないから言わなかっただけで…。何か、動物よりも重いやつが天井裏にいる気がする。見えなくても音は聞こえる。壁に変な影が…いや、やっぱり何でもない。」

私達家族は、いつもこんな風に引越しをすることがあります。
夫は
「今度はさ、狭くても新築にしよう!」
と晴れやかに言っています。

前回暮らしていたアパートは霊の通り道になっていたので明確でしたが、今の家には何が起きているのか分かりません。
新築にだって土着の霊がいる事があるとは、夫には言えませんでした。

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