恐怖の泉

実話系・怖い話「香典を数える父」

父親が亡くなった時、半年ぶりに帰省しました。
私の両親は実家で青果店を営んでいましたが、昨年母が風邪をこじらせた肺炎で亡くなると、お店はたたんでしまいました。

実家に到着すると既に父親の遺体は棺に入り、親戚の者や近所の方たちがすっかり葬儀の支度を整えてくれていました。
遠方に住む姉も帰って来て、悲しむ間もなく指図された目の前のことをするのに必死です。
親族の食事の支度や葬儀の手配。思った以上にやる事は多く、姉と2人でなんとか無事に乗り切りました。

姉も私ももう一泊したら一旦家へ戻って、四十九日の法要の時に家の事等を話し合うことにしました。

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深夜、私は寝苦さを感じてお茶を飲もうと、居間に行きました。
お茶を煎れてコタツに入り、飲みながらこれからのいろいろを考えていたような気がします。
ふと何かの気配を感じて顔を上げると、父親が生前の姿そのままで向かいに座っていたのです。

とてもビックリしましたが、かろうじて声は上げずに済みました。
父親は箱にいれていた香典を数えていました。

「お父さん、心配いらないよ。明日姉さんと全部きちんと済ませるから。」

私がそう語りかけると、父親は悲しげな目を私に向けます。
肉親といえど足元からぞくっと寒気が走ります。
次の瞬間、ガラリと障子が開いて姉が入ってきました。
姉は父の姿を見るなり

「父ちゃん何やってるの!死んだのが分からんか!早く行きな!もう来ないで母さんの所にいきな!」

もの凄い剣幕でそうまくし立てると、父親はすっとかき消えました。

「姉ちゃん、いくら何でもあんな言い方は酷い!」
私がそう抗議すると、姉は
「死んだらあの世に行くものでしょ。幽霊と暮らすなんて、ろくな事にはならない。」
と言っていましたが、その表情には悲しさが滲んでいたように思います。

その後、姉は住んでいたアパートを引き払い、実家へ帰りました。
姉にしたら、あそこで父親に一喝しなければ幽霊と同居することになる、と判断したのでしょう。
きっと姉は自分なりに、将来の事を見据えていたのだと私は思います。

大人しい姉のあんな姿を見たのは、これが初めてです。

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