恐怖の泉

実話系・怖い話「OLの中古パソコン」

これは私が勤めている会社に出入りしている、フリーライターのSから聞いた話です。

Sは以前まで新聞記者として働いていたのですが、もっと自由にジャーナリストとして活動したいとフリーライターになった情熱のある記者です。
社会部にいたこともあり、現在の社会問題についていろいろと熱心に取材をしていました。

これまでと違い自由に取材をして記事を書けるようになったS本人は満足していたようですが、新聞記者を辞めてフリーライターになったことで収入は激減し不安定になりました。
それでも節約をしながら記者として頑張っていた時でした。

突然、愛用していたパソコンが壊れてしまったらしいのです。

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思わぬ出費で参っている、とSから相談された私は
「もしもそんなにスペックにこだわらないならば、中古のPCを買ったらどうか」
とアドバイスしました。

Sは特にパソコンへこだわりがあるタイプでは無く、ただ記事を書くための道具として使用していました。
私のアドバイスにのったSは、早速私の会社のパソコンから中古品を買い求めます。
思った以上に使われていた業務用のパソコンなどは中古として売られており、スペックはそれなりですが、Sにとっては十分なようでした。

Sは1K、つまりキッチンと個室1つという一人暮らし向きの部屋に住んでいました。
風景の見晴らしだけはこだわっていたようで、大抵最上階の部屋を借ります。
その時も、最上階の5階に住まいを借りていました。
どこかのタワーマンションのようにゴージャスではありませんが、街をある程度一望出来る窓からの眺めを、私も自慢された事があります。
高所恐怖症の私には良さが理解できませんでしたが…。
そんなSの部屋ですから、カーテンも激安の薄っぺらい物なので、夜になると部屋の様子が伺い知れる状態でした。

ある日、22時頃になって遅い夕食を食べに、近所のラーメン屋へSは出かけました。
ふと帰り道でマンションを見上げると、自分の部屋から明かりが漏れていました。
部屋の明かりというよりは、テレビか何かをつけっぱなしにした時のような明るさだったと言います。

「パソコンの電源、つけっぱなしだったかな…」

確か消したはずだと思いながら部屋に着くと、案の定パソコンが起動していてモニターが室内を照らしています。
まぁ何かの拍子で勝手に起動したのだろうと思い、食後の眠気もあってあまり気にもせずパソコンの電源を落とし、Sは就寝しました。

夜中の2時ころ、人の気配を感じたSは薄目を開けたそうです。
するとパソコンが起動していて、長い髪のOL風な女性が椅子に座っていました。

夢でも見ているのだろうか…とSが思っていると、女性は何か呟いています。
聞き耳を立ててみると、女性はか細い声で
「開いて開いて」
と言っていたそうです。

すると彼女は、今度はSの方へスーっと近づいてきました。
こっちへ来るな!と思っても、Sは身動きどころか声一つ発せません。
Sに接近した女性は、耳元で
「開いて…開いて…」
と訴え続けたそうです。

Sが気づくと既に朝になっていました。
パソコンは起動したままだったと言います。
Sは現実とも夢ともつかない体験の中で、女性が「開いて」と言い続けていた事を思い出しながらパソコンに近寄ります。
すると昨晩まで気づきませんでしたが、女性のような名前の勤務報告書ファイルがたくさん入っているフォルダを見つけました。

たまにハードディスクをきちんと消去せずに転売する手抜き業者の存在が報道されますが、Sの買った中古パソコンもその類だったのかもしれません。

Sがその勤務報告書を見ていくと、どうやら某有名企業の下請け会社に女性は勤めていたようです。
有り得ない事に、彼女は月200時間を超える残業を強いられていた事がわかりました。

Sは昨晩のあの出来事が悪夢ではなく、過労死で亡くなったOLの悲痛な残留思念のように感じたと振り返ります。
それからこの件について調べ、雑誌でも特集として取り上げて結構大きなニュースになりました。
当然こんな話では通りませんので、発覚したきっかけは内部告発だと変更しました。

過労死で亡くなったOLが使っていた業務用パソコンが、データを消さないまま販売する手抜き業者を経て、元社会部のフリーライターの元にやって来たこの出来事は、私はとても偶然と思えませんでした。

Sと私は記事を公表する前に、彼女のお墓参りへ行ってきました。
彼女の意思をどの程度くみ取れたのかは分かりませんが、きちんと事実を明らかにすると誓い、今度こそ安らかに眠って下さいと伝えました。
Sのパソコンの前にまた女性が現れた事は今のところありませんので、きっと成仏してもらえたのだと思っています。

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