恐怖の泉

実話系・怖い話「悲しむ父親」

私は大学生の時にモノクロ写真へハマってから、被写体を求めてよく海外に一人旅をしていました。
特にモロッコがお気に入りで、何度か渡航して現地に知り合いも出来たりといった状況でした。
現地の知り合いは、仮にAさんとしておきます。

モロッコでは交通機関が正確に機能していない部分がありました。
そこでAさんの家に数日泊めてもらって、旅のスケジュールを再度組む事にしたのですが、1人気ままな旅なのであまり予定もありません。
それなら是非見て欲しいと、Aさんが自分の通っている学校へ連れて行ってくれました。

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学校へ行く途中、彼女の知り合いらしい男性が声をかけてきて、2人は少し話し込んでいました。
アラビア語は旅で使用する程度でしか知らない私に、内容までは理解できませんでしたが、深刻そうなのは様子から伝わりました。
話が終わってからどうしたのか尋ねてみると、彼は近所に住んでいる幼馴染だったらしく、悩んでいるから夜に話を聞く事になった。もし彼が落ち込んでいたら元気付けてあげてほしい、と言われました。

Aさんは熱心なイスラム教徒で、周りの人から広く慕われたり頼りにされているのは、出会った時から分かりました。
私のような旅をしている人間にも、話を聞きたい、勉強をしたい、と快く受け入れてくれた女性です。
そんな彼女でも彼の事で悩んでいるというのですから、その男性はよほどの悩みを抱えているのだと推測できました。

夜、約束通り男性が来てAさんと話し込んでいます。
私は邪魔になるかと思って、彼女の家族と団欒していました。
1時間程すると話がひと段落したのか、Aさんが私を呼びました。

私には正直言って何もできる事がありませんでしたが、彼の気分転換に私を呼んだんだのだろうと思い、盛り上げる事に努めます。
そこで皆で写真を撮ることにしました。
私は旅で撮った写真を他人へ送るという事をしてきませんでしたが、彼には写真を送ると約束しました。
彼も笑顔で私をハグして応えてくれて、親指を立てる姿は明るい雰囲気があったので、私は何となく安堵していました。

そして夜、私が寝ていると不思議な体験にあったのです。

電気が点いたり消えたりするのを感じ、スイッチの方を見ると知らない男性が立っていたのです。
私は強盗の類かと思い息を飲みましたが、彼は動く気配もなくただ突っ立っています。
誰なのか、顔を見ようとそーっと近づいて横から覗くと、号泣しているではありませんか。
一体何事かと思い、電気を点けて彼と話そうと思った瞬間、目の前からフッと消えてしまったのです。

「え?今の人って幽霊だったの?!」
パニックになった私はAさんを起こして経緯を伝えたのですが、笑って信じてくれません。
私の見間違いだったのかな…と思いながらも、とりあえず寝る事にしました。

翌日、家がざわついている様子で目が覚めました。
Aさんは泣いており、普通ではありません。
どうしたのか尋ねると
「昨日来ていた彼が、自殺をした」
と言っていました。

私もかなりショックを受けましたが、それよりも何度もお世話になっているAさん家族のショックは大きかったと思います。
旅の予定を変更した私は、今回はAさん達のサポートをすることにしました。

亡くなった彼のお父さんは、半年前に病気で亡くなられていたそうです。
彼は突然一家を支えていかなければならない立場となり、お金や兄弟の事で悩んでいたといいます。
自殺は宗教的にもタブーとされているモロッコですから、よほど心の重圧があったのだと思います。
そして彼の家ですが、私が就寝していた部屋のスイッチの延長線上にありました。

帰国後、写真を現像して引き伸ばすと…皆で撮った1枚の写真に異変が。
自殺した彼の、笑っていたはずの顔だけがモヤっと霧がかかったようになっていて、右腕には指のような物が絡んでいるように写っていました。

ここからは私の推測ではありますが、彼のお父様は必死に自殺しようとする彼を引き止めていたのではないのでしょうか。
そして夜に私が見た男性は、彼の自殺を止める事ができなかった父親が、悲しんでいる姿だったのではないか。そう感じるのです。

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