人間の怖い話「田舎の火葬場」
私が中学生の頃、叔父から聞いた話をします。
数十年前と、かなり昔の出来事です。
私の叔父は、当時人口1万人程度の小さな町で地方公務員をしていました。
ちなみに私も、その町で18歳まで生活していました。
町は地形的に言うと北側が山となっていて、南側が平地でした。
人口が少なく田舎ですから、町全体に田園風景が広がっております。
そしてほとんど人が居住していない山の麓には、町営の火葬場が設置されていたのです。
火葬場というのは目立った巨大な煙突があります。
住民たちは、巨大な煙突から煙があがる度に「また人が死んだ」と気付いたといいます。
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田舎町ですから、煙が上がると誰が死んだのか興味を持ちます。
娯楽があまりありませんから、田舎の人たちは同じ町民の冠婚葬祭について異様な関心を示していたのです。
そこで、町役場勤務の地方公務員の自宅、つまり私の叔父の所へ出向いては
「昨日はいったい誰が死んだんだい?」
と尋ねに来たと言います。
昔の事ですから、今のようにプライバシーだとか個人情報の保護などという概念は存在しません。
地方公務員であっても、自分が知っていることはペラペラと喋ってしまっていたといいます。
このため、次第に住民たちは町役場に住民から死亡届と死亡診断書が提出され、火葬場の使用許可が出された時点で
「今度は○○地区の▲▲さんが死んだらしいよ。」
などと噂し合うようになっていったのでした。
火葬場周辺の住民の情報は、特に正確でした。
例えば、住民から「○○さんが死んだらしいよ」と噂を聞くと、実際に数日後には煙突から煙がもくもくと出てくるのが見えるため、「あぁ、本当に死んだんだ」と実感したそうです。
噂が事前に無い場合は、煙が出てから誰が亡くなったのかを聞きにくるのです。
それがある時期から、不可思議な現象が起きるようになりました。
火葬場周辺の住民から、亡くなったという話を聞いていないのに煙突から煙が出ている、という話が多く寄せられました。
当初、住民達は
「火葬場の修理をしているんだろう」
「新しい機械を導入したから、試しに何かを燃やしているんだろう」
などと思ったそうです。
しかし6ヶ月間で6回も、住民が亡くなったという話を聞いていないにもかかわらず、煙突から煙が出ました。
役場に死亡届も出ていません。
流石にこれはおかしい、と思ったようでした。
更におかしな点がありました。
火葬場が稼働する時間帯は住人達も知っています。午前9時から午後6時までです。
ところが時間外の早朝や深夜に煙突から煙が出ていたり、休場の日に煙突から煙が出る事もありました。
近隣住民たちは不審に思い、叔父にこの火葬場の怪現象を話しました。
叔父もそれはおかしいと思い、まずは火葬場で何が起きているのかを知るため、深夜の時間帯から周辺住民達と手分けして、火葬場を遠巻きに監視することにしたのだそうです。
そしてある日の朝。
午前5時頃に火葬場の責任者が出勤してきて、その直後、ワゴン車が火葬場に入っていきました。
監視していた住民はワゴン車から棺桶が運び出される様子を見ていたそうですが、その人達の人相が驚くほど怖かったのだそうです。
どうやら、裏社会で生きている人間ではないかとのことでした。
火葬場の責任者はその人達に慣れている様子で、運び入れを手伝っていたと言います。
さらに監視を続けると、焼き場が灯って作業が始まったようでした。
すると数分後、焼き場の方からかすかに「ギャー!」という叫び声が聞こえてきたというのです。
監視していた住民は驚いて腰を抜かしてしまいましたが、必死になって自宅に逃げ帰ったのでした。
それ以来、煙突から不審な煙が出ていても見ぬ振りをして、誰も火葬場の噂をしなくなりました。
知らない方が良い事も、世の中にはあるのかもしれません。
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