恐怖の泉

実話系・怖い話「デパートの男の子」

これは、私がデパートの派遣店員をしていた時の話です。

新ブランドの立ち上げに抜擢された私は、老舗デパート内にオープンした初日を担当しました。
事前告知もあり初日は大盛況で、翌日の品出しや売り上げの計算が終わらず、残業になってしまいました。

「ご苦労さん。明日もあるんだから、早く閉めて帰りなさい。」
そう言い残して売り場の責任者も帰ると、広いフロアーに私だけが1人取り残されました。
まだ9時でしたが、古い石造りの建物は外からの物音も遮断され、気味が悪いほど静かです。
ここまで誰もいなくなることはこれまで経験がありませんでした。イベントの撤去や搬入があると、深夜でも人が居たのです。

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頭を切り替えて作業に追われていると、不意に線香の香りがしてきました。
思わずゾッと寒気が走りましたが、「そんなはずはない…」と自分に言い聞かせて仕事を急ぎます。
とにかく早く帰りたい一心でした。

すると、今度は低い読経の声がしました。

どこのデパートにも怪談話の1つや2つあるものだ!と無理に納得しようとするも、怖いものは怖いです。
読経ははっきりと聞こえ、気のせいどころではありません。

私はダンボール箱にやりかけた仕事を押し込むと、バッグを抱えて一気に5階から1階まで駆け下ります。
その途中、5歳くらいの男の子とすれ違いましたが、恐怖に支配されており無視してしまいました。

警備員室まで来て表へ出ると、日常が広がっていました。
酔っぱらったサラリーマンのグループや、肩を寄せ合うカップが歩いていました。
ホッと一息つくと、すれ違った男の子が気になりましたが、まぁ警備の人も来るだろうと思って私は帰宅しました。

翌日、売り場の上司に中途半端で帰宅したことを詫びました。
「1人でいたら線香の香りがして、読経が聞こえてきたんですよぉ…。」
と恐怖体験を話すと、その上司は
「あれ、通達知らなかった?ごめんごめん。それね、倉庫に男の子の幽霊が出るって噂があったもんで、一応供養したからだわ。
9時過ぎだろ?みんな1階に集まっていたんだよ。」

何と私が知らないだけで皆残っており、本当に線香と読経をあげていたのです。
皆が集合していた事に気付かないほどテンパッていたんだな、と思うと同時に、私がすれ違った男の子がひょっとして幽霊だったのかもしれないと考えると、鳥肌がたちました。

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