後味の良い怖い話「お座敷での体験」
これは私がまだ子供の時、体験した話です。
私の実家はとても古い家で、子供の頃で既に築150年くらいだと聞いていました。
天井を見上げれば立派な梁が見えて、柱なども深い樹の色でとても雰囲気があり、私は好きでした。
小学生に上がる頃だったでしょうか、自分の部屋が欲しいと親にねだって自室を作ってもらいました。
そこはお座敷の前の畳の部屋で、本来はお座敷と玄関の間にある通り道の部分です。
学習机と本棚を配置すると、後は布団を敷くだけでいっぱいになる小さな部屋でしたが、その頃の自分にとってはお城のような場所でした。
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暑い日は襖を開け放ち、すぐ前のお座敷と一つの間のようにして風を通します。
お座敷にはお仏壇と、先祖代々の顔写真が並んでいて、夜になると怖い雰囲気がありました。
私自身は自分の部屋ですから、特に怖いとか不気味といった感覚は持ちませんでしたが、親戚の子供達が泊まりに来た時には口々に嫌だと言うので、他の人にとってはそういうものかと思っていました。
夏のある夜のことです。
当時は台所にしかクーラーがなかったので、暑い自室で扇風機を付けて布団へ横になります。
汗をかいてなかなか寝付けず、時間だけが過ぎていきました。
日付けも変わって、夜の冷たい空気がやっと細い風となって換気用の窓から入り込み、すっと暑苦しさが楽になって静かに眠気を催し始めました。
ミシッ…
軋む音で一瞬意識が戻るも、瞼は開けられない程ウトウトしたままでいると、続けて音が聞こえてきます。
ミシミシ…ミシミシ…
何の音なのかはすぐに分かりました。もっと幼い頃からずっと聞き慣れていた音だからです。
それはお座敷から玄関まで、自室沿いに繋がっている廊下を人が通る時に聞こえる、木の床が軋む音でした。
廊下に体重が乗った時、足を運んで床を擦った時、それらが合わさって聞こえる足音です。
よく磨かれてはいましたが古い床なので、人が通った時にはすぐに分かります。
その音が、家族全員が寝静まったお座敷の前の廊下から聞こえてきたのです。
足音は止まることなく耳から入ってきたので、段々と意識が覚醒してきました。
ですが何故か瞼は頑として開かず、音だけがずっと聞こえ続けます。
ミシミシ…ミシミシ…
誰かが移動している事は間違いありません。どうやら廊下を行ったり来たりしている様子です。
でもこんな真夜中に誰もそこへ居る筈がない。
そもそも、そこに行く為には私の部屋を通って行かなければならないのです。ウトウトしていたとしても、気付かない筈がありません。
そして、どんなに力を入れても瞼が開かず、体も硬直していました。
ふと、頭に感触がありました。
頭を何かに強く擦られるような感覚です。
左右にゴシゴシ、ゴシゴシ、と痛い程に擦られています。
不思議と怖いとは思わず、何なんだろう?と思っているうちに眠っていました。
20年ほど経った今でも、この体験は身体の感覚としてハッキリと記憶にあります。
思い返してみると金縛りだったのかなと推測していますが、俗に言う冷や汗もかかなければ気分も悪くなく、悪寒も感じなかったのです。
悪い出来事ではなく、ひょっとしてご先祖様か何かに頭を撫でられたのでしょうか?
夏になると思い出す、私の不思議な体験でした。
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