実話系・怖い話「手の感覚」
これはおおよそ20年程昔の話になるでしょうか。
大学2年の時。
私は他大学の、テニスサークルという名目の飲みサークルへ所属していました。
夏合宿ということで、名前が知れているとある海岸近くの民宿にみんなで行ったのです。
それぞれにお目当ての人もいたりなんかして、青春の楽しい時間を過ごすのが目的でした。
泊った民宿から海岸まで、徒歩で行ける距離にあります。
2日目か3日目か忘れましたが、女子だけが海で遊んでいた時に事件は起こりました。
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浮き輪を中心にキャッキャッしていたのですが…本当は遊んではいけない区域だったようで気づいた時には流されており、160cm以上ある私の身長ですらどう頑張っても海底に足がつかない沖まで来ていました。
浮き輪につかまっていた女子は5人いたと思います。
「どうする、どうする」「やばいんじゃない…」
焦りながら陸を確認すると、サークルの人が見ていたようでしたが、流されているとは思っていない感じです。
仕方なく少し泳ぎに覚えがある私が声をかけて浮き輪を脇に抱え
「みんな、しがみつかないで。自然に体は浮くから。」
と声を掛け、離岸流だと思われる流れから外れるべく、横に泳ぎ出します。
丁度その時、足に何かが触りました。
感覚的には人間の手でした。
それから腰に手が上がってきて、両手で強くひっぱられているような、しがみつかれているような感じがしました。
私の隣には泳げない子がいたので、流され始めた直後に大騒ぎをしていました。
心が曲がっていた私は「こんな時も可愛い自分アピールか」と思い腹が立っていた件があったので、その彼女がしがみついていると思い
「私にしがみつかないで。しがみつくと一緒に沈んじゃうんだからね。」
と言い放ちました。
その後、必死に横へ移動させていると次第にその感覚はなくなり、無事流れから抜けだすことが出来、陸を目指しました。
やっとのことで無事陸へ到着してから、ふと思いました。
あの状況で、誰かの手が私の足や腰に触れるわけがないのではないか。
私が怒鳴りつけ気味に声をかけた隣の子だけでなく、全員が必死になって浮き輪にしがみついていた状況です。
冷静に思い返して、ゾッと鳥肌が立ちました。
あれは何だったんだろう。もしかして前日のお酒が残っていて、何かの刺激をそんな錯覚に感じたのでしょうか。
確かに人の手の感覚は残っていて、筋肉痛とは違う痛みが掴まれた部分に残っていました。
それからしばらくして、私たちが流された海岸で小学生と親御さんの死亡事故がありました。
「私たちが流された所だよね」「危ない所だったんだね」
と話の種になりましたが、ニュースや新聞によると以前から同様の事故が何度かあり、遊泳禁止の看板があるけれど皆守らないことなどが紹介されていました。
「看板があるって言っても、横から海を見ながら斜めにくる人もいるんだから、私達みたいに気が付かない人もいるよ」
と思わず毒づいた記憶があります。
何はともあれ、私たちは無事に生きています。
サークル仲間からはとても感謝されましたが、とても不思議な経験でした。
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