恐怖の泉

実話系・怖い話「帰ってきたお爺さん」

これは確か社会人になって3年目のお正月だったでしょうか。
話に出てくる名称は仮名です。

私の家族は、お正月になると親戚の家へ遊びに行くのが子供の頃からの恒例行事でした。
従姉妹にお年玉をあげた後、皆で過ごしていると叔母がお酒や飲み物が足りないと言い出したので、私がコンビニへ買いに行くことにします。
時間は昼間の11時30分くらい。
外に出ると玄関から4~5mほど右手に自転車を引いたお爺さんが立っていて、ドアが開く音に気付いたようで声をかけられました。

「すいません。私、田中と言いますが…あそこにある青い屋根の家に10年ほど前まで住んでおりまして。
今、どなたがお住まいかお分かりになりますか?」

そう尋ねてきたお爺さんは、見た目から70歳は過ぎていそうな感じで、肩まで伸びた白髪に長く伸びた髭が特徴でした。
ですが不潔な印象は全く無く、サンタクロースを想像してもらうといいかもしれません。
身なりはともかく、お爺さんが引いていた自転車は全体的にひどく赤錆びていて、まるで何年も放置されていたようなボロボロの自転車でした。

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親戚の家に住んでいる訳ではない私は、お爺さんの質問に答えかねたので
「ちょっと待ってください。」
と告げ、家に戻って居間にいる従姉妹に青い屋根の家の人の名前を訊くと
「田中さん。」
と言います。
お爺さんが名乗った苗字と同じだと思いながらも、お爺さんのとこへ戻り教えると
「家族構成は分かりますか?」
また質問されます。
「すいません、ここは親戚の家なので僕もそこまでは…」
他家の情報をあまり詮索するのは良くないと思ったので、私はそう答えます。
「分かりました。ご丁寧にありがとうございました。」
お爺さんはそう私に礼を言うと、青い屋根の家を見つめていました。

変な人だな…とは思いましたが、そのまま買い物へ行き20分ほどして戻ると、お爺さんは居なくなっていました。

あの歳で泥棒とかする感じも無いし、何だったんだろう?
ひょっとして借金か何かで家を手放したけど、懐かしさとかで見に来たのかな?と、思いを巡らせます。
私自身、子供の頃に父が事業で失敗して、住んでいた家から引越した経験があったので同じような境遇を想像してしまいました。

昼食を摂った後、従姉妹と遊んでると
「そういえば、さっき変なこと聞いてきたけどなんだったの?」
と訊ねられます。
私がお爺さんの事を話すと、従姉妹も不思議そうに
「なにそれ?なんか変な人なんじゃないの?」
と言います。私は
「見た感じ70歳は過ぎていたし、犯罪者とかではないんじゃないかな?変な人は変な人だけど。」
と返していると、叔母が話に入ってきます。
叔母にも話をすると、不思議そうな顔をして
「田中さんとこ?あそこのお爺ちゃんって、10年くらい前に亡くなってるわよ。」
と言われました。

お爺さんが私に言った「10年ほど前まで住んでいた」と、叔母が言う「10年くらい前に亡くなった」という時期の一致に「ん?」と思った私は、10年前に亡くなったというお爺さんがどんな方か聞いてみます。

「あいさつ程度で、そんなに親しくはしてなかったけど…髭があって、お爺ちゃんなのに長髪だったのは覚えてる。」

まさか同一人物?などと思っていると、聞いてた従姉妹が
「待って待って!何それ、何それ!」
と軽くパニック気味になり「怖い話しないで!」と怒り出しますが、私も巻き込まれた側なのでどうしようもありません。

パニックになる従姉妹とは対照的に、叔母は
「お正月で皆、家にいると思って来たのかもね。」
としんみりとした口調で言っていました。

本当に幽霊だったのかは分かりませんが、私はこの日以外でお爺さんの姿を見たことは一度もありません。

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