恐怖の泉

実話系・怖い話「Aさんの手紙」

私は子供の頃からイラストを描くのが大好きでした。
周囲の子よりもそこそこ上手だったので、学校で賞をもらったりと褒めてもらえることが多かったんです。

大人になってからは、自分の描いた絵を趣味の合う人に見てもらいたいと思い、本やグッズなどを自作する活動を始めました。
これをきっかけに全国で同じ趣味の方々と親しくなることが出来、手紙や作品を交換することが日課となっていきました。

その中に、私が住む地域からはやや遠い場所にお住まいの「Aさん(仮名)」という女の子がいました。
有難いことに彼女はとりわけ熱心なファンで、私の作品をよく注文してくれている方でした。

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Aさん自身もイラストを描く事を趣味にしており、明るい内容の手紙は読んでいるだけでも楽しくなります。
注文してくれた作品が届くと丁寧に感想を返信してくれて、Aさんの手紙は私のモチベーションを上げるとても大きな糧だと言えるほど、良い刺激になっていました。

そんなある日、見知らぬ相手から1通の手紙が届きました。
差出人を見た限りでは男性であることがわかるのですが、住所や名字がAさんと同じです。
もしかしたら身内の方かな、ひょっとしてAさんに何かあったのでは…と少し不安を感じながら封を開けて読んでみると、差出人はAさんの父親であることがわかりました。

Aさんは亡くなってしまったと、手紙には記してありました。

亡くなったこと自体がショックだったのは当然ですが、それを上回る衝撃の内容が書かれており、思わず鳥肌が立ちます。
なんとAさんは、ずいぶん前に他界されていたというのです。

Aさんの父親は、娘が亡くなったショックで無気力な日々を過ごしていたそうなのですが、最近になって手紙の存在を知り、遠く離れた場所に住む娘の知り合いだと思ってわざわざ連絡をしてくれたようでした。

ところが最近もAさんからの手紙は私へと届いており、手紙の筆跡からして明らかに父親のものとは違います。
書かれていた作品の感想や趣味のイラストについての内容も、Aさん本人以外が書いたと思われる不自然な箇所は見られませんでした。
ではAさんが亡くなった後に、自分が相手にしていたAさんとは…一体誰だったんでしょう。

Aさんとの付き合いは長い期間ありますので、初期の手紙は生前のAさん本人である可能性は100%間違いありません。
有り得ない出来事を否定したくとも、現実にAさんから届いた手紙がある事に頭が混乱します。
しかしAさんの父親は憔悴しきった様子だったため、あまり深く詮索することはしないようにしました。

この出来事からかなりの月日が流れ、今ではあんなに夢中になっていたイラストもほとんど描く事が無くなりました。
ですが、趣味のイラストや自分が送り届けた作品について楽しそうに語っていたAさんの事を、辛くなった時にふと思い出します。

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