実話系・怖い話「青い人魂とコオロギ」
これは夏の暑い日の出来事でした。
私達は暑気払いもかねて、気心知れた美容師仲間3人で飲み会をしていました。
飲み会も後半に差し掛かり、話がはずみます。
そうしているうちに1人がこんなことを言い出しました。
「そういえば、今日お客さんから○○山の人魂の話を聞いたよ。俺ら地元に住んでいるけど、まだ行ったことがなかったよな。今日行ってみないか?」
新しいもの好きで好奇心旺盛だった私達は「お客さんとの話でネタになればいいな」と思い、山奥にある心霊スポットへ肝試しに行くこととなりました。
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そこは戦没者の慰霊碑あり、全国から訪れる人がいるほど有名な場所です。
地元では「お盆の決まった日時に行くと人魂が現れる」という噂がかねてからあり、私も聞いた事はあります。
戦没者慰霊碑なので、初めは遊び半分でそういった所を見に行くことは気が引けました。
しかしお酒に酔った勢いと、「友人と行くなら大丈夫か」と軽はずみなノリがあいまって、足が向きました。
山奥の慰霊碑がある所までは階段を上っていきます。
息も途切れ途切れになりながら、半ば登り始めたことを後悔しだしていました。
先を歩いていた友人が振り返って「遅いぞ」と呼び掛けてきます。
焦った私は、速足になり階段を踏み外し転んでしまいました。
「おっと」と思って姿勢を修正しようと思ったら、その拍子に階段のわきにある窪みの下まで落ちてしまいました。
腰にズキンと痛みが走ります。
目の前には苔で湿った地面が見えたのですが…
なんと、そこには大量のコオロギがいるではありませんか。
動けない身体で湿った苔の中、コオロギが身体の周りへ大量に集まってきます。
「ガチャガチャガチャガチャ…」
という鳴き声に、意識も遠のきかけます。逃げようにも腰を打っているので動くことができません。
友人達も、私が足を滑らせて階段のある経路から外れていることに気づいていないようです。どんどん先へと進んで行きます。
コオロギの大群の気持ち悪さに、身の毛がよだちます。
その時、携帯が鳴りました。
友人からの電話です。
「やっと気づいてくれたか」
安堵して携帯の通話ボタンを押そうとした時です。
ぼうっ、と目の前に青い人魂が現れました。
「うそだろ…」
声をあげようとしても、金縛りにあったかのように身体が動かないし、声も出ません。
ゆらゆらと目の前に漂う青い人魂に唖然としながら、コオロギに囲まれて逃げようにも逃げることができません。
「戦没者慰霊碑に遊び半分で近寄った罰が当たったんだ。」
後悔の念が押し寄せてきます。
そのうちだんだん、反響しているかのような声も聞こえてきました。
「助けて…助けて…助けて…」
もちろん自分の声ではありません。
それは、無念を抱き亡くなった戦没者達の声だったのかもしれません。
そのまま私は意識が遠のきました。
気がつくと自分のベットの上で眠っていました。
時計を確認すると、翌日の昼過ぎになっていました。
友人達が、私が窪みに落ちているところを見つけ出して助けてくれ、自宅まで運んでくれていました。
幸い大きな怪我もなく、自宅で安静にしているうちに体調も回復していきました。
心身ともに落ち着いてきたので、友人に昨夜階段から踏み外れた事の顛末を話しました。
ところが私が落ちた窪みは石がむき出しになっていて、苔は生えていなかったと友人2人は言います。
コオロギはおろか虫もいなかったし、人魂も見ていないそうです。
ただ、助けた時の私はものすごく怯えていたとのことでした。
記憶には無いのですが
「助けて…助けて…」
と、繰り返し呟いていたそうです。
青い人魂やコオロギは、私が酔っていたから見えた幻覚だと思いたいです。
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