実話系・怖い話「スキー場の宿」
私の両親はウインタースポーツが好きな事から、幼い頃からしばしばスキーへ連れて行ってもらっていました。
子供の頃の旅行の記憶なので、すごく楽しい思い出が多いです。
ただ1つだけ、毎回どうしても慣れない怖いことがありました。それは夜の宿です。
どのスキー場にも宿泊施設の1つや2つ、普通はあるものです。
泊まっていくお客さんも多いことですし、そういった施設を建てることは非常に理にかなっているとは思います。
しかし辺境の地に無理やり設置された宿も少なくありません。
ですから幼い私にとって、古びた宿は何とも言えない不気味な恐怖がありました。
恥ずかしい話が、トイレへ行く時は毎回誰かについて行ってもらったりしたものです。
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大人になってからこの話題をした所、両親からこんな話を聞きました。
今から30年ほど前、まだ私の両親が新婚だった頃。
2人でよく各地のいろんなスキー場に足を運んでは一晩泊まってと、楽しい時間を過ごしていたそうです。
その中の1つ、私もよく行ったことのある某県のとあるスキー場で事は起きました。
その頃にはスキー場周辺の宿泊施設が古いホテル1つしか無く、選択の余地が無かった両親はそのホテルに泊まりました。
外壁はピンクの塗装で、なかなか規模のあるホテルです。
言葉だけ聞くと想像するようなホラーチック宿とは程遠いイメージですが、山奥に1つしかありませんので実際に見ると物寂しい雰囲気が漂っています。
温泉へ入った両親は、夕食のバイキングを食べて旅行を楽しんでいました。
そこから部屋へ戻りお酒を嗜み、夜もすっかり更けて心地良い疲れと共に眠りについたそうです。
深夜2時頃。
母が目を覚ましトイレに向かいました。
その時、父は布団でぐっすり寝ていてイビキをかいていたそうです。
お酒を飲みすぎたのか少し長いトイレを済ませてから部屋へ戻ると、父の姿は無かったと言います。
部屋へ戻る途中、男子トイレに明かりが灯っていたので、同じくトイレへ向かったのだと思い再び布団に入りました。
幾分か経ち仰向けに寝ていると、部屋の扉が開いた音がして足音がしました。
母はその時、父がトイレから戻ってきたと思ったそうです。
ところがその足音は、父の布団ではなく母の方へと向かってきました。
母は不思議に思ったそうですが、なぜがそのまま体が動かなかったと言います。
足音は母の布団の前で立ち止まったまま。
何だろうと思った母が声をかけようと思ったその瞬間、何者かが母の上へ覆いかぶさってきたのです。
母はもちろんびっくりしましたが、すっかり足音の主が父だと思い込んでいたため、ふざけて倒れこんできたものだと思ったそうです。
「ちょっと、やめてよ~」
笑い交じりに身もだえしていたその時、母の横目にとんでもないものが見えてきました。
なんと隣の布団では父がイビキをかいて寝ていたのです。
一瞬思考が止まり、血の気が引いた母は叫び声をあげて覆いかぶさる何かを振りほどこうとしました。
しかしもうそこには何も、誰もいなかったと言います。
母はすぐさま父を叩き起こし、状況を伝えました。
ですが父はそんな出来事に全く気づかなかった上に、とんでもないことを口にしました。
父はその夜、1度も起きておらず、布団を離れていなかったのです。
母は確かに、トイレから帰ったら父の布団に誰もいないことを確認したと言います。
現在でもその宿は営業しており、私自身も合宿で泊まったことがあります。
何か特別な違和感があるわけではなく、ごく普通の宿です。強いて言うなら、夏でも廊下が異常に寒かった印象はあります。
未だに母は、あの時覆いかぶさってきたのが誰なのか、そもそも人間だったのか分からないと言います。
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