恐怖の泉

実話系・怖い話「もう長くないな」

私には3歳上の兄がいます。

兄は小さな頃からもの静かで、いわゆる神経質な性格です。一般的に男の子が興味を持つようなやんちゃな外遊びや、おしゃべりなどうるさい環境を嫌い、家にこもって漫画やテレビを見ているような子供で、毎日のように外で大騒ぎをして遊んでいた私とは対照的でした。
親をはじめとした周りの大人からも
「男と女が逆になったような兄妹だね」
とよく言われたものです。

それでも不思議と兄妹の仲は良く、本や漫画の内容を話したりしていました。

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引きこもりの兄には友達もほとんどいなかったので、ふと私が
「お兄ちゃんは友達がいなくて寂しくないの?」
と質問したところ、兄は
「家の中に友達が2人いるから寂しくない。2人と色々な話をしている。」
と答えたのです。

我が家は貧しかったので、その当時住んでいた家も家賃の安いボロ借家だったのですが、私は兄が家族以外の人といる姿を見た事がありません。
不思議に思って「家の中のどこに友達がいるの?」と聞き返すと
「みんなが起きていてうるさい時には出てこない、夜とか自分以外に誰もいない時に出てきて、色んなことを話してる。」
と言うのです。

変な事を言うなぁとは思ったのですが、その頃の兄は物語を創作してノートに書いたりしていたので、その類の妄想というか、作り話かなと私は思っていました。
その後も兄の「2人の友達」の話は、何度かあったと記憶しています。

そして数年が過ぎ、私が中学1年、兄が高校1年の頃でしたでしょうか。

父方の実家へ遊びに行った帰りの車の中で、後部座席に私と並んで座っていた兄が、私にしか聞こえない程度の声で
「じいさん、もう長くないな。」
と言いました。

父の実家は農家で、お爺ちゃんは元気にバリバリ働いていました。
その日まで病気一つなく、大酒を飲んで食べて誰よりも元気だったお爺ちゃんが亡くなるとは、到底考えられません。

私「どういうこと?だってあんなに元気じゃない…。」
兄「そのうちわかる。じいさんには『もう色がない』。」
私「色がないって…何?どういうこと?」

兄は私の質問に返事をせず、外を向いたまま黙ってしまいました。

その頃には私も、兄がいわゆる「霊感体質」を持っていると感じており、子供の頃に聞いた「2人の友達」というのも幽霊の類なのだろうと考えるようになっていました。
実際に兄は事故など何かがあった場所に行くと気持ちを悪くしたり、寒気を訴えたりするのです。

その兄が言った「長くないな」です。
私はなんとも表現しがたい、背筋が凍るような気持ちがして、その日なかなか眠れませんでした。

それから何日か後、お爺ちゃんに肝臓がんが発見されました。
ステージ2で即入院となりましたが、年齢のわりに肝機能が丈夫で転移がなかった事もあり、手術を受けて抗がん治療に入ることができました。
命に影響があるわけではない状態に落ち着いたことで、親族もひとまずは安心して気軽にお見舞いに行ったりしていました。
兄を除いては。

兄は手術の日は一緒に病院に来たのですが、手術室から出てきたお爺ちゃんを一目見て具合が悪くなり、それ以来お見舞いには行かなかったのです。
親がどれほど理由を聞いても、怒っても、お爺ちゃんの話になると何も話さなくなり、最後には親も諦めて何も言わなくなりました。

手術から10日後、皆が一安心したその矢先にお爺ちゃんは「がん」ではなく「心筋梗塞」で、あっという間に旅立ちました。

訃報を聞いた時、私は思いました。
「あぁ、兄はわかっていたんだな」と。

人の好き嫌いが激しい兄には珍しく、お爺ちゃんの事は好きでした。
葬儀の時には声を出さずに泣いていました。
大人になった今でも、兄が涙を流したのを見たのはその一度きりです。

兄は言っていました。
「俺は死期が近い人間を見ると、その人だけが色が薄くなって見える。
いよいよダメな人は白黒に見える。
じいさんが手術室から出てきたとき…完全にじいさんだけが白黒だった。
辛かった。」

現在、私達兄妹は40代になりました。
兄の「死ぬ人が白黒に見える」という現象は年を経る毎に無くなり、今ではほとんどそういう力は無いそうです。

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