恐怖の泉

後味の良い怖い話「会いに来たおじいちゃん」

私の実家のそばには、ご高齢のおじいちゃんが住んでいました。
とても子供が大好きな方で、おじいちゃん宅には近所の子供たちが多く集まっていました。
私も幼い頃は、広くて自然がいっぱいあるおじいちゃんのお宅でかき氷を食べたり、素麺をすすった記憶が今でも残っています。

おじいちゃんは子供が何をやっても許してくれ、近所のガキ大将たちが少々悪さをしても目をつぶってくれる度量の広い、本当に尊敬できる人でした。
実のおじいちゃんを早くに亡くしてしまった私は、このご近所のおじいちゃんのことを「本当のおじいちゃん」のように慕っていました。
私だけでなく、子供達皆が優しくてあったかいおじいちゃんのことが大好きだったのです。

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私が高校生のころ、おじいちゃんは少し離れた病院へ入院することになりました。
どうやら持病が悪化して、入院せざるを得なくなったのだそうです。
おじいちゃんが入院した後は、おじいちゃん宅はひっそり静かになりました。たまに遠方に住む娘さんらしき方が掃除に来ていましたが、それ以外は誰も訪れない静かな日々が続いていました。

私は大学受験で忙しくなり、おじいちゃんの入院も相まってお宅に遊びに行くことがなくなりました。
さらに大学入学後は上京して1人暮らしを始めたため、実家に帰ることも少なくなりました。

そんなある日のこと、ゼミでの研究を終えていつものように大学を出ようとすると、肩に何か生温かい感触を感じました。
とても暑い真夏日ではあったのですが、風も吹いていないのになんだろうな…と思いながら歩いていると、後ろからコツコツと歩いている音がします。
ですが振り返ってみても、誰もいません。

すると今度は右の耳たぶの辺りに、ふわりとした温かい感触がありました。
目には見えないけれども、確かに誰かがそばにいる、そんな気がしました。

再度歩きながらもまた気配を感じて振り返ると、今度は淡い白い光に包まれて、成人男性の姿が見えました。
そこには子供の頃、よく遊んでもらったおじいちゃんの姿があったのです。

「お、おじいちゃん?おじいちゃんだったの?」

おじいちゃんはニコニコとただひたすら、笑って佇んでいました。
笑うと目の周りにシワが一杯できるところも、あの時とまったく同じ。
久しぶりのおじいいちゃんとの対面に、自然と涙がポロポロ溢れてきました。

私がおじいちゃんに触ろうと手を伸ばしてみると
「あれ?」
いつの間にか私の体がふわふわ浮いています。
体に羽根が生えたように軽くなり、私は宙に浮かんでいました。
しかしよくよく周りを見渡してみると、地面には目をつむって倒れているもう1人の私がいます。

もしかして幽体離脱?そう思っていると
「大丈夫?大丈夫?」
倒れているもう1人の私の異変に気づいた通行人たちが、懸命に声をかけています。
「私は大丈夫、だってココにいるから。」
そう声を上げようとしても、声が出ません。

ふと隣りを見ると、おじいちゃんが手を下げて他人を遠ざけるジェスチャーをしている事に気が付きました。
「まだ、お前の来る場所じゃない。帰りなさい。帰りなさい。」
そう言っているように感じました。

気がつくと、私は病院のベッドの上にいました。
看護師の方に聴いたところ、熱中症で意識を失って危ない状態だったそうです。
安否報告がてら、実家の母に電話しておじいちゃんと会ったと話をすると、おじいちゃんは半年ほど前に亡くなっていたと聞きました。

この時の経験を思い出すと「おじいちゃんが助けてくれたんだ」と思えてなりません。
お盆がくるたびに思い出す、私の不思議な体験でした。

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