恐怖の泉

実話系・怖い話「一緒に遊んだ子」

これは遠い昔に、私が入院していた時の話です。

小学校に上がる前、4歳の私は少し大きな病気で1ヶ月ほど入院していました。
親元から離れてさぞかし寂しかったのではないか?と思われるのですが、実際の病院生活は子供同士のコミュニティがしっかりとできていて、意外に楽しいものだった記憶があります。

病室は相部屋で、常に6人から8人ぐらいの子供が出たり入ったりを繰り返していました。
私より後に入ってきて先に退院するお友達もいれば、私よりもずっと長く入院しているお友達もいました。
入院中に手術をする子も多く、みんなでよく「行ってらっしゃい!」と手を振って見送ったものです。

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小児病棟は他にもいくつか部屋がありました。
日中に自由時間というものがあり、その時間内であれば同じ階を自由に出歩いてもよい決まりがありました。
ですが長い入院で退屈してきた私は、次第にこっそりと自由時間外の夜に部屋を抜け出す遊びをしていました。

ちょっと悪いことをしているという意識が、余計ワクワク感を募らせるものです。
私と同じように冒険心を味わっているお友達はもう1人いました。
歳は5~6歳の子で、いつも黄色いパジャマを着て髪は長く、とても無口なお友達でした。
私はすぐにその子と仲良くなりました。

話しかけてもその子は笑って返してくれるだけなのですが、それでも一緒に塗り絵をしたり、面白かった絵本を交換して遊びました。
抜け出すのは時間にして15分ぐらいでしたが、それでも当時の私にとっては大きな冒険です。また2人だけで秘密を分かち合っているような気分が、より一層楽しかったのです。

ある日、私の退院が決まりました。
退院後も経過を見るために通院が必要でしたが、1ヶ月ぶりに家に帰る時が来たのです。
家のベッドで久しぶりに眠れること、好きなものを食べられるようになることは嬉しかったですが、せっかく仲良くなった病院の友達とお別れするのはとても寂しく思いました。

母親はまだ入院している友達に気を利かせて、お世話になったお礼に皆へ配る小さなキーホルダーを持って来てくれました(病院内でお菓子を配ることはダメだったので)。
同じ病棟のお友達全員に配っても一つ余ったので、私はいつも夜の冒険を一緒に楽しんでいたお友達にあげようと思いました。
親が退院の手続きをしている間に他の部屋全てを見て回ったのですが…どこにもその友達の姿は見当たりません。
もしかして私より先に退院したのかな?と思って、看護師さんに聞いてみました。

看護師さんからは「その子のお名前はわかる?」と聞かれたのですが、その友達は私が話かけても笑顔を返すだけだったので、名前を聞いたことはありませんでした。
私もあえて自分の名前を言っていなかったように思います。
そこで看護師さんに、その子がいつも着ていたパジャマの色や彼女の特徴を伝えました。
すると看護師さんは少し表情を曇らせて
「もしかして○○ちゃん?でも…。」
と言ったまま押し黙ってしまいました。

結局友達は見つからなかったので、私はいつもその子と会って2人で座っていたソファーに、こっそりキーホルダーを置いてきました。
お掃除の人にバレないよう、子供の手しか入らないような背もたれの狭い隙間にグッと差し込んでおきました。

この話を母親に聞かせると
「あんたはよく入院中、夢遊病になっていたらしいよ。」
と言われます。
もしかして全部、私の夢だったのかもしれません。

ですが確かに分かっているのは…
私が探していたその友達の特徴が、ずっと前に手術の甲斐なく亡くなってしまった女の子に似ていたという看護師さんの話。
そして退院後の検査ついでに病棟へ遊びに行った際、あのソファーの背もたれに手を突っ込んでもキーホルダーは無くなっていたということです。

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