恐怖の泉

実話系・怖い話「目玉のお化け」

これは私が子供の頃の話です。

私が家族と共に他所から引っ越してきて、その後また引っ越しするまでの数年間を過ごしたその家には、引っ越し当初から変なお化け(?)のようなものが棲み着いていました。

どんなお化けかと言うと「目玉のお化け」です。
全身は煙のようにもやもやとして真っ黒で、まるで遠くを見るときのように両手?を目の上にかざし、ただ顔の位置に浮かんだ目だけがはっきりと見える。
そんな目玉のお化けが、外からしょっちゅう家の中を覗き込んでくるのです。

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最初に私がお化けの存在に気がついたのは、私達家族がその家へ引っ越して来て数週間ほど経った頃のことでした。
私が1階の居間で1人遊んでいると、掃出し窓の隅から何かがこちらをじーっと覗き込んでいました。

初めは家で飼っているネコのルーシーだと思いました。しかし直ぐにそれがネコではないことに気が付きます。
真っ黒で、モヤモヤとして、妙に悲しそうな目をした何かが、こちらをじっと見つめているのに気がついたからです。

「おかーさーん!外に誰か居るよー!」

私は怖くなって、台所にいる母を呼びに行きました。
母のスカートを引っ張り、必死になって居間まで連れてくると、そのお化けのいる場所を指さします。
お化けは私が大騒ぎしている間も、ずっと変わらず外からこちらを見つめていました。

「なによ、誰も居ないじゃない。」
「えー、いるよー!ほら、そこ!」

首を傾げる母に、私は必死にそのモヤモヤを指しましたが…どうも母にはそれが全く見えていないようです。
結局いつの間にかそのお化けは消えていなくなり、私が母から変な子扱いをされただけでその場は終わりました。

その日から、私は頻繁にそのお化けを目にするようになりました。
リビングや和室、時には2階の窓など、常に外から家の中を覗き込む位置にそのお化けは現れます。
頻度は、大体週に1回程度でしょうか。時には1ヶ月間全然見ないときもあれば、日に2回違う場所で覗いていたのを見かけたこともあります。

最初のうちは私もお化けを見かける度に怖がっていたのですが、お化けは家の中に入ってこない、家族の誰もが見えていないということから、そのうち見えても殆ど無視するようになりました。
お化けが出てくる時は大抵悲しそうな目をしているか、無表情な場合が殆です。
意外に目だけでも、表情といいますか感情が読み取れるものです。
ただ飼い猫のルーシーが病気で死んでしまった時、悲嘆に暮れる私達家族をとても嬉しそうに覗いていたのが不気味でした。

その家で暮らしてから2年くらい経った頃でしょうか。
私が小学校から帰ってきて1人で居間に座っていると、また例のお化けが掃出し窓の下からガラスに張り付くようにして、家の中を覗き込んでいるのに気が付きました。
それもニヤニヤと、今まで見たこともない程嬉しそうな目です。

「何よ、ニヤニヤして。気持ち悪い!」

私はその得も言われぬ気味悪い様子についカッとなって、手元のクッションを窓へ投げつけました。
クッションはガラスに跳ね返り、お化けは変わらずニヤニヤと家の中を覗き込んでいます。

その時私はふと、そのお化けがこちらを見ていないことに気が付きました。
お化けは居間の奥の、台所の方を見て笑っているのです。
何となくその視線を追うと…なんと、ヤカンが空焚きで火にかけられたまま、コンロの上に放置されているではないですか!

私は飛び上がり、慌ててガスの火を消しました。
ヤカンは下側が真っ赤に焼けており、今にも火事になる寸前だったのです。
後で聞いたところ、母が火を消し忘れていました。

何とか火を消し止めた私は、居間の窓を振り返りました。
目玉のお化けは、まだ窓に張りついてこちらを見つめています。
しかし先程の表情とは一転、心底こちらを憎み、怒るような怖い目をして、じっーと私のことを睨みつけていたのです。
私はその視線から感じるあまりの恐怖に、2階の自室に駆け込んで家族が帰ってくるまで布団の中でずっと震えていました。

相変わらず目玉のお化けは出現し続けましたが、目玉のお化けが嬉しそうに家の中を覗き込んだのはそれが最後でした。
それから1年後、私達はその家から引っ越しました。
その後も私は何度か引っ越しを経験しましたが、あのようなお化けを見たのはその家だけでした。

結果だけ見ると、あのお化けが居たから家は火事を免れたようにも思えますが…あの表情。
心底悔しい、心底憎いと睨みつけるあの目を見るに、多分あの存在はあまり性質のいいお化けではなかったんだろうなぁと、今でも思っています。

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