恐怖の泉

実話系・怖い話「子供のかんしゃく」

私が以前、賃貸マンションに住んでいた時に体験したお話です。

当時私は夫と4歳の息子の3人暮らしで、家事に育児にと忙しい日々を送っていました。
その日も私は、夕方いつものように息子を保育園へ迎えに行き帰宅後、夕食の準備をするまでの僅かな時間を利用してリビングのソファでうたた寝をしていました。

30分かそこら眠ったでしょうか。
誰かがバシバシとかなり強い勢いで、寝ていた私の顔を叩いてくるのです。

「ちょっともー、誰?たーくん?そんなに叩かないでよ…」
「うん、僕たーくん」

私の寝顔を叩いていたのは息子でした。
時計を見ると6時過ぎ。夫が帰ってくるまでには多少時間がありますが、それでもそろそろ晩御飯の支度を始めてもいいところです。
さあ準備を始めるか!
そう思いながらソファから起き上がった時…私は目に入ったリビングのあまりの惨状に唖然としました。

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リビングはまさに台風一過と言った有様でした。
そりゃあ小さな子供のいる家ですし、元からキレイだったわけではありませんが、それにしても酷すぎます。
夫の音楽CDや本、息子のブロック玩具などが床中に撒き散らされており、畳んで積んでいた洗濯物はグチャグチャ。
テレビ台の引き出しなども開け放たれており、中の機械類が台から斜めに零れ落ちています。

「え?!なにこれ!!たーくんがやったの?!」
「うん、たーくんがやった」

息子はこっくりと頷き、今度は棚に残っていた本をひっくり返しました。

正直、信じられません。
うちの息子はどちらかというと大人しく内気なタイプですし、それ以前に私がほんの数十分眠っていただけでこれだけ派手なイタズラをしたというのでしょうか?

「ちょっと!!たーくん、何でこんな事やったの!?片付けなさい!お母さん怒るからね!」

息子の態度にカッとなって大声を上げましたが、息子は全く動じた様子もなく、更に度を超えたイタズラを続けます。
スマホを投げつけ、液晶テレビを倒し、冷蔵庫の中身をグチャグチャに放り出しました。

「たーくん止めて!止めて!何でこんな事するの!?」

子供の「かんしゃく」にしても、あまりにも酷すぎます。
私は半ばパニックになりながら、とにかく息子の乱暴を止めさせようと抑え込んだのですが、これが全く敵いません。4歳とはとても思えないもの凄い力で私を突き飛ばすのです。
息子は子供のかんしゃくらしく泣き喚くでもなく、淡々と、まるで作業か何かのように手当たり次第に家の中をグチャグチャにしていきました。

あまりの出来事に私が止めることもなく呆然と息子の凶行を見ていると、やがて家のインターホンが鳴りました。夫が帰ってきたのです。

(そうだ、夫ならきっと止められる!)

私は藁にもすがる思いで玄関へ駆け寄り、扉を開けました。
「お父さん、助けて!たーくんが…」
「え?たーくんならここだけど。その子はどうしたんだい?どこの子?」
「…え?」

玄関の外には、不思議そうな顔をした夫と園児服姿の息子が立っていました。
慌てて振り返ると、そこには今の今まで確かに息子だと思っていた「見知らぬ子供」が、息子の玩具を片手に立っていました。
つり目で、髪はボサボサ。半ズボン姿で、息子よりかはもうちょっと年上に見えます。

全くワケがわかりません。

確かに息子のはずでした。
けれど、今は全くの別人に見えます。
私はこの、全く見も知らぬ別の子供を、さっきまで自分の息子だと疑いもしなかったことにゾッとしました。

私も夫も頭がついていかずに立ちすくんでいると、その子供は私や夫の横を走り過ぎてそのまま玄関から外へと飛び出していきました。
慌てて追いかけようとしましたが、子供はマンションの廊下を走ってあっという間に見えなくなってしまいました。

その後、夫や息子から話を聞きました。
どうやら息子は私が眠った後に1人で家を出て、夫を出迎えるべくマンションのロビーで遊んでいたのだそうです。
息子は家の鍵を掛けていかなかったので、10数分ほどの間は外部から家に誰でも侵入出来たことは事実です。
しかし、それにしたって異常です。

それから半年ほどの後、息子の幼稚園進学と合わせて私達はそのマンションを引っ越しました。
結局、あれが単なる他所の子供のイタズラなのか、何かの心霊現象であったかはわかりません。
私はそれ以来、例えどんなに短時間であっても絶対に玄関の戸締まりだけは忘れないようにしています。

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つい先程まで息子だと思っていた全く知らない子供が、部屋で暴れた様子。

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