恐怖の泉

実話系・怖い話「岩棚の袋小路」

これは忘れもしない、俺が山で危うく遭難しかけた時の話です。

山登りが趣味で、休みになるとあちこちに車を飛ばしては山登りをしています。
まあ冬山登山みたいなガチ勢じゃなくて、ハイキングの延長みたいなお散歩コースにしか行きませんが。
それでも普段住む都会では見られない、尾根から見る山の景色は絶景です。

その日も、俺は関西地方にある某山に一人で登っていました。
途中、コースの林道が崖崩れにあっていて迂回したりと多少のトラブルがあり、予定から幾分か遅れた時刻になって山頂に到着。
山には意外に人が沢山居るものですが、先行して山頂についた人たちは皆既に下山の支度に取り掛かっています。
俺もちょっと急がないとな、と思い景色を楽しむのもそこそこに、下山ルートへと向かいました。

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尾根を進み、踏み跡を辿るようにして歩いていると、やがて向こうから50~60代くらいにみえる男性がこちらに向かって歩いてきます。

「こんにちは、どうしました?」
「途中でルートを間違えたみたいだ。この先は途中で道が荒れてとても進めない。」

それが本当なら一大事です。
俺はその男性と話をした結果、それならさっきの分かれ道が正しいルートだろうと結論づけ、男性と同行して一緒に進むことになりました。
来たルートを少し戻り、途中の分かれ道から再び下山を再開。

歩きながら話を聞いていると、男性は俺のようなエンジョイ勢とは異なり、山に随分経験のある本格派のようです。
「百名山は全部登ったよ」
「へー、すごいですね!」
と言った感じで、男性は経験の少ない俺を先導するようにどんどんと前に進んでいきます。
こちらも、男性のその自信有り気な態度からすっかり安心してしまい、ただ後をついていくだけでした。

最初のうちは特に問題はありませんでした。きちんとした道が続いています。
けれど歩いている内にいつの間にか道が不明瞭になっていきました。
登山道なのか獣道なのかはっきりしない道を歩いている内に、こちらも徐々に不安が募ってきます。

「大丈夫なんですかね、これ。何か迷ってません?」
「登山道は場所によってはこんなもんだ。大丈夫。」
「本当なんですか?」
「大丈夫。」

こちらの問いかけに、男性は自信有りげに「大丈夫だ」と繰り返します。
俺は内心不安でしょうがありませんでしたが、その場所から一人で道を戻る自信もなく、仕方なしに男性の後をついて歩きます。

また暫く進むと、やがて下り道と言うか、殆ど崖のような場所に差し掛かりました。
おいおい、本当にこんな所行くのかよ?と思い、流石に抗議しようとしたところ…
いつの間にか前を歩いていたはずの男性の姿が何処にも見えません。

え?置いていかれた?
慌てて周囲を見渡すと、やがて崖下の岩場に男性らしき人影がうずくまっているのを見つけました。
しかし、様子が変です。
ピクリとも動かず、上から幾ら声を掛けても返事がありません。
もしかしたら崖から落ちて怪我したのかもと、俺も覚悟を決めてその崖を滑り降りました。

何とか崖を降りきって男性に近づくと、何とその人影は死体でした。

もう、驚いたなんてもんじゃありません。白骨死体。
しかも、それが先程まで俺と一緒に歩いていた男性の服を着ているんですから。
はっきり言ってパニックです。人生であれほどビビったこともないでしょう。
今すぐ死体が起き上がってきて襲われる、なんて恐怖が沸き起こってきます。

けれど逃げることは出来ませんでした。
そこは二段になった崖の中腹のような場所で、先程滑り降りた崖をまた登るか、完全に切り立った下の崖をさらに飛び降りるかしか、進む先がないのです。
俺はなるべく死体に近寄らないようにしながら、必死になって道を探しましたがダメでした。
岩棚の上の、進むも引くことも出来ない完全な袋小路。
このままでは俺もあっという間に「男性」の仲間入りです。

その後、幾らか頑張ったものの遂にギブアップ。
あの時、実は携帯の電波が繋がっていることを知った時は思わず声が出ましたよ。
震えながら119番に連絡をし、救助を要請しました。
結局、俺がヘリに救助されて下山したのは次の日のことでした。

レスキューの人が言うには、あの時「男性」と出会って一旦引き返す前のルートで正解だったのだそうです。
死体を見つけて欲しかったのか、それとも仲間が欲しかったのか…。

今でもあの時の、救助を待ちながら狭い岩棚の上で白骨死体と過ごした一晩の恐怖は忘れられません。

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