恐怖の泉

実話系・怖い話「消えたお婆さん」

今から10年ほど前でしょうか。
とても天気の良い秋の休日に、私は妻と一緒に自宅から徒歩30数分ほどのところにあるスーパーへ買い物に行きました。
出かけたのは午後2時か3時頃だったと記憶しています。

自宅を出て5分くらいの所に小さな交差点がありまして、そこを右に曲がるとダラダラと長く続く上り坂があります。
その日、私と妻はその坂道の左側にあるお寺の塀を横目で見ながら、ゆっくりと上って行きました。
塀はあまり高くないので、塀越しに中のお墓が見えます。

行きは上りがキツく、息が切れぎみになるので妻との会話も少なくなります。
坂道を15分ほど歩けば広い平坦な道路に出ることができ、そこから左に曲がって更に15分ほど歩いていくと、目指すスーパーマーケットへと到着することができます。

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スーパーでの買い物を終え、帰路についたのは夕方の5時頃だったと思います。
今度は行きとは違い下り坂で楽なため、妻との会話も弾みます。

広い平坦な道路から交差点を右に曲がってあの坂道に入ります。
少し薄暗くなった周りの景色を眺めながら、坂道をゆっくりと下りてきました。
お寺の塀のあたりに差し掛かると道路は急に狭くなり、道にあるガードレールに沿って歩きながらでも、延設されている塀が近く感じられます。

なんとなく妻と普通に会話しながら塀の前にある電柱を見ると、電柱に寄り添うようにお婆さんが立っていました。
ハッキリと覚えていますが、割烹着を着て白髪をお団子にまとめた丸顔のお婆さんです。
私は、お婆さんをなんとなくチラチラ見て何気なく妻に
「なんであんな所にお婆さん立ってるんだろうね?」
と言いました。

すると妻は
「えっ?どこ?あの電柱ゴミの収集場所だから、網や箱が置いてあって人なんか立てないよ。」
と言います。

え?と思い振り返ると…そこには誰もいませんでした。

「いっ、いない?!さっきのところにいない!お婆さんどこ行ったんだ?」
私は叫びながら、振り返ってキョロキョロしてしまいました。
お婆さんから目を離したのは、わずか数秒。隠れる場所も無い道路上から、お婆さんは忽然と消えていました。
騒ぎ立てる私を見て、擦れ違う人達が怪訝そうな視線を向けてきましたが、人目をはばかっているどころではなく本当にビックリして取り乱してしまいました。

あんな短い時間であそこから立ち去れるはずがない。
電柱のところから坂道を上って行ったとしても、オリンピック選手でもない限り…いや人間の能力で、瞬時に見えなくなるほど移動など出来るだろうか。
道路には隠れる場所などないし…。

頭が混乱して考え込み立ち往生してしまった私は、妻に再度
「さっきのお婆さん、どこに行ったんだろう?急に消えるなんて変だよね!」
と話をすると、妻からは
「えっ?お婆さんって誰?最初から誰もいなかったよ。」
と返されました。

それ以来、私はスーパーへの買い物でその道を通らないようになりました。
あのお婆さんはただの見間違いだったのでしょうか…。

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