恐怖の泉

実話系・怖い話「持ち出した位牌」

これは母方の祖母に聞いた話です。

私の母方の祖母はとても明るい人で、80歳を目前にした今でも飼い犬の散歩をしたり、私達に冗談を言ったりととても快活に毎日を過ごしています。
そんな祖母がまだ20代だった頃、とても田舎に住んでいて父親は地主だったらしく、大きな畑をたくさん所持していました。
父親は小作人に農作物を作らせて生計を立て、どちらかというと裕福な家庭で祖母は育ちました。

しかし父親の事は心底嫌っていたそうです。
その理由は母親の事を大事にしなかったからだそうです。
物凄く亭主関白な父親は、母親を家政婦の様に扱っていたと言っていました。

たとえ体調が悪くても、雨が降ろうが構わず畑作業をさせた事もあったらしく、祖母はそんな母親を不憫に思っていつしか父親を嫌う様になってしまいました。

スポンサーリンク

そんな生活が原因なのか定かではありませんが、祖母の母親は早くにして亡くなってしまいました。
まだ祖母が30歳になる位でした。

とても悲しんだ祖母は、父親と絶縁して実家を出る事に決めました。
着の身着のままと最低限の荷物を持って家を飛び出したそうですが、その時に母親の位牌も持っていったそうです。
母親はこの家ではきっと辛い思いしか無い、ここに置いて行ったらあまりにもかわいそうだ、そう思ったらしいのです。

そして住み込みの仕事を始め、寮で生活する様になりました。
仕事に慣れるまでかなり苦労したらしいのですが、数ヶ月もすると生活にも慣れ、日々の生活に余裕が出来たらしいです。

そんな時にふと、実家から持ち出した母親の位牌の事を考えました。
あの時は勢いのまま持ち出してしまったが、本当に良かったのだろうか?本当は嫁いだ家に置いておくべきなのだろうか?
祖母の頭からはその考えが離れなくなってしまったらしく、母親の位牌を実家へ返す事に決めました。

仕事が休みの日に祖母が実家へ帰ると、父親とは特に会話をすることも無く位牌だけを返しました。位牌を返すと祖母はそのまま会社の寮に帰りました。
これで心の中でのモヤモヤが取れた…はずなのに、なんだか胸騒ぎがしたそうです。

その日の夜、明日に備えて早めに床へついた祖母はなんだが寝苦しく、不快な感覚に襲われたそうです。
金縛りの様な感覚なのですが、意識はしっかりとあり、身体も動かす事が出来ます。
しかし目は開けられませんでした。

しばらくその感覚に襲われていると、右の二の腕に痛みを感じました。
それは思わず「うっ」と声を漏らしてしまう程でしたが、その痛みを感じるとそのまま眠りに落ちたそうです。

朝起きると、祖母は昨日の夜の出来事を思い出し、恐る恐る右の二の腕を確認しました。
そして思わず言葉を失ってしまいました。

二の腕にははっきりと「ハハ」という文字が浮かび上がっていたそうです。

これは昨日実家に返した位牌が原因だと直感した祖母は、その日の仕事を休んで実家へ帰り、母親の位牌を直ぐさま持ち帰りました。
祖母には母親が
「実家にはいたくない、祖母の元へ置いて欲しい」
とメッセージを送ってきたのだと確信を持ったと言います。

位牌を持って帰りしばらくすると、祖母の二の腕に浮かび上がった傷は綺麗に消えて無くなりました。
そして位牌は祖母が結婚して構えた家で、大切に今も保管しています。

そういえば私が小さい頃、祖母の家へ遊びに行った際に訳も分からず、何気なくその位牌にお線香をあげたら、祖母が泣いて喜んでくれた事がありました。

祖母は母親の事を本当に好いていたのだと思います。
あのいつもにこやかな祖母がこの話をした時は随分と真剣な表情だったので、本当の話なんだと、私は信じています。

スポンサーリンク

TOP