恐怖の泉

実話系・怖い話「無いはずのフロア」

私はF在住ですが、勤め先から急遽でO支店へ長期出張を命令されました。
期間は1ヶ月ほど。大きな会社ではないので人数調整の応援です。
これはその出張中に体験した話です。

O支店は市内北部にある持ちビル。そう言うと聞こえはいいのですが…
1階は駐車場、外階段から上がる2階が会社事務所、3階から7階まではワンルームの賃貸。
1フロアに狭いワンルームが6戸しかない、小さな建物です。
中途半端に長い出張なのでそれなりの荷物を持ち込み、会社の所有である上階の空室をあてがわれました。

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職場と寝床が同じ建物というのは、便利なようでどうにも味気ないものです。
仕事が終わって事務所玄関から外階段を降りて通りに出ます。
買い物に行くわけですが、戻ってくるのはまたこの建物で、事務所玄関とは反対側の賃貸マンション専用の玄関から入ります。
その玄関もまた小さく、建物に数歩入れば横に郵便ポスト、さらに数歩進めば狭いエレベーターホールで行き止まりです。

その日は陽が沈むのが早く、買い物が終わって帰ってきた時には周囲が暗く、エレベーターホールは照明が灯っていました。
エレベーターに乗り込み、自分の部屋がある5階のボタンを押します。
するとエレベーターが上昇し、フロアを1つ通り過ぎるのが見えました。
そこは蛍光灯が切れているのでしょうか、フロアの照明が点いていません。
一瞬ですが、暗がりに正面のドア前でたたずむスーツ姿の人影が見えました。
そして2つの明かりの点いたホールを通りすぎ、エレベーターが5階で止まります。

エレベーターを降りてすぐ右に501号室。
私の部屋はエレベーターから降りて正面にあるドア、502号室です。
右方向へは廊下が伸びて503号室以降が並んでいます。賃貸部分はどのフロアも同じ間取りです。

エレベーターを背にしてポケットから鍵を出そうとしている時、違和感に気付きました。
何かおかしい。

エレベーターに乗って窓から見えたフロアは、暗くてうっすら人影が見えたフロア、そして明かりの点いたフロアが2つ。
2階、3階、4階…?
計算が合うようで、よく考えたら合わない。

と言うのも、2階は会社事務所しかなく専用の外階段からしか出入りできません。
つまりエレベーターは2階に止まらないのです。
ビルの造りがそんな感じですから、当然エレベーターホールなども無く、2階を通り過ぎる時にドアの窓から見えるのはコンクリートの壁だけです。

勘違い?数え間違い?
でもたった今のことなので記憶ははっきりしています。
確かに3つのフロアを通り過ぎました。

目の前のドアをもう一度見てみます。
502号室。5階に間違いありません。
妙だな…と思っているとハッとして、硬直してしまいました。

暗がりの中にいた、人影のことを思い出しました。
ドアの前でやや右肩を下げ、右手をポケットに突っ込んだまま切り絵のように静止していたスーツ姿の影。

今、考えにとらわれてポケットから鍵をまさぐる仕草のまま動きを止めている自分が、まさに同じポーズを取っているのです。

そのことに気付いた時でした。
たった今自分が降りてきた背後のエレベーターから、視線を感じます。
今しがた私が降りて、誰も乗っていないはずのエレベーター。
誰かがじっと、私の背中を見ている。怖くて振り向いて確認することができません。

ゆっくり鍵を取り出し、502号室のドアを開け、中へ入ると振り向かないまま後ろ手にドアを閉め鍵をかけました。

結局、あの人影は誰だったのでしょうか。ドッペルゲンガー?
とりあえず私はまだ無事ですが、あの時後ろを振り向いていたら状況は変わっていたのでしょうか。

出張を終えて戻ってきた今、自宅マンジョンも同じようにエレベーターのドアに窓があるタイプです。
9階にある我が家まで見える、エレベーターの窓からの風景が妙に気になるようになってしまいました。

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