恐怖の泉

実話系・怖い話「残業で泊まった女子更衣室」

これは今から30年程前でしょうか。
私は当時25歳ぐらいだったと思いますが、東京の日本橋にある商社に勤めていました。

部署は商品部で取り扱い商品の配分、生産等を担当していました。
メーカーではなかったので商品発注、納期確認、出来上がり商品の発送、発送先担当者との打ち合わがメインの仕事です。
とにかく電話での打ち合わせが多く、各担当の要望、売上に生産調整と結構多忙な就業だったと思います。
自社製品であっても自社工場でつくる訳ではないので、それなりに競合他社の競り合いもあり。
毎日遅くまで残業していたのを覚えています。

その日も生産調整の打ち合わせで東京支店の担当者と会議になり、気が付けば午後11時を過ぎていました。
私の自宅は会社から1時間半程の所でしたが、もうこの時間では明日の予定も考えると帰るのは諦めなければなりませんでした。

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会社には当然の事ながら女子更衣室があり、昔で言う電算室等のデータ分析部署が遅くなった時に泊まるため、畳敷きで布団も常備されていました。
11時を過ぎてもやはり電算室の方がまだおり、セキュリティのこともありましたので色々聞きながらその手はずを整え、私が最初に更衣室へ入った時間は11時半頃。
入った瞬間になんというか、白粉とかなんかの化粧品のような臭いがものすごくして、改めて女子更衣室と言うのはこんなに時間が経っても匂うんだなぁと思いました。

布団を敷きながらテレビを見ていると、12時ごろになって最終退社の方がやってきました。
「あと、よろしく。おつかれさまでした。」
と会話を交わした際、私は何気なく
「女子更衣室ってこんなに化粧くさいんですね。」
と聞くと、その方は臭いを嗅ぎながら
「別にそんなことは無いと思うけど…。」
と言いながら帰っていきました。

私だけが匂うわけないだろう…と思いながら、もう会社には私たった1人です。
かなり長い会議をしていたので疲れていたのか、30分程テレビを見ると眠くて仕方が無くなり、消灯して眠りにつきました。

どのくらい眠っていたかわかりませんが、突然更衣室の中で「パリーン」と食器が割れるような音がしました。
その音があまりにもはっきり聞こえたので、何かが落ちたと思って電気をつけて確かめようと思いました。
ですが首から下の部分が全く動かないのです。

「え?金縛り?」
と思うものの、そんな経験は初めてなものでどうすればよいのか全くわかりません。
首は動きます。目も開いています。その他の体はピクリとも動きません。
緊張がどんどん募り、耳にはグワーンというような耳鳴りみたいなものも聞こえています。

すると、私の頭の上から畳を歩く音が聞こえてきました。

スッ…スッ…

頭の上から始まった足音は、私の体の周りを音を立てながら歩いていきます。
目は開くものの、怖くてその音の方を見ることができません。
体は緊張で益々硬くなっていきます。

足音が自分の足元に近づくと、音はしなくなりました。
もう大丈夫かな…と思って視線を足元へ向けると…

白いTシャツを着たショートカットの女性が、私の足元に立っていました。

その髪型、顔の感じは今でも覚えています。
恐怖で目を閉じた私は、そのまま動くのを諦めました。

その後いくらお経を心の中で唱えても、体は動きません。
でもその女性の存在感は確かに感じ、目を開けることができませんでした。

そのあと何時間そうしていたかわかりませんが、一睡もしないまま明るくなるまでじっとしていました。
金縛りは夜明けと共に治っていったような気がします。
でも、怖くて怖くて動けませんでした。

朝になってとにかくその場から離れました。
若かった私はその夜の事を、出社した人に次々と話しました。
しかしその後、総務部長に呼ばれて
「その話は社員にしないでくれ。」
と釘を刺され、会社のお局様からは
「特に女子社員には絶対しないでくれ。」
と言われました。

社長の運転手さんは会社に何十年も在籍している方なのですが、その方から5階の女子更衣室から飛び降り自殺したショートカットの女の子がいたと聞いたのは、その何日後かの事です。

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