恐怖の泉

実話系・怖い話「手招きするおばさん」

もう大分前になくなってしまった、JRの某所踏切。
その踏切は通行量が多く、朝夕の通勤ラッシュ時などは軽く開かずの踏切のようになることもあって、普段から閉じた遮断器を強行突破する無謀な人や車の絶えない、中々危ないところでした。
当時私は高校生で、通学の行き帰りによくその踏切を利用していました。

その日も私は学校からの帰り道、いつものように踏切へ行き当たりました。
遮断器は閉じきっており、カンカンと警報が鳴る中、目の前を何本もの電車が行き交っています。

(あーぁ、開かずの踏切に捕まったなぁ、これは長そうだ。)

内心うんざりしながら踏切が開くのを待っていると、ふと踏切の向こう側からしきりにこちらへ向けて手招きしているおばさんの姿に気が付きました。

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おばさんは50歳くらいでしょうか。ニコニコと満面の笑みを浮かべていました。
ちなみに全く見覚えはありません。

(何だあのおばさん。こっちに知り合いでもいるのか?)

そう思って何となく隣を見たその瞬間、1人のおじさんがさっと遮断器の下をくぐって踏切内へと入って行きました。
え?と思いました。同時に無理だ、とも思いました。

毎日通っている踏切なので、信号無視のできるタイミングも大体判っています。
その点から言えば、おじさんの飛び出したタイミングは最悪でした。
引き止める間もなく線路に飛び出したおじさんは、右手から来た急行電車に「ばんっ!」とはね飛ばされてしまったのです。

その後は散々でした。
電車は止まるし、警察は来るし。
目撃者ということで警察から事情を聞かれたので、踏切の向こうで手招きしてる奥さんらしき人が居たので、多分それを見ておじさんは遮断器をくぐったのだろう、という事も含め見たこと全てを話しました。
すると私の話を聞いた聴取役の警官は、しきりに首を傾げています。

「いや、他の目撃者からも話を聞いてるんだけど…そんな女の人の話は出てこなかったんだよね。轢かれた人は独身だし。」
「奥さんかどうかは知らないですけど、親しそうな雰囲気でしたよ。」

そう言われても、こちらとしては見たままを答えるしかありません。
その時は
「おばさんも自分が手招きしたことが原因で轢かれたことを、きっと警察に隠してるんだな。」
くらいに思っただけで、その後改めて警察から呼び出されることもなく、その話はそこで終わりました。

それから3ヶ月ほど経った頃のことです。

事故後しばらくの間は避けていた踏切ですが、やはり生活上不便だったこともあり、その頃にはまた通学の行き帰りで踏切を通るようになっていました。
その日もまた私は踏切に差し掛かりました。

踏切は既に遮断器が降りており、横には小学校低学年くらいの男の子が大人しく踏切が開くのを待っています。

あの事件のことを思い出し、何となくまた向かいの踏切に目をやって…私はギョッとしました。
おじさんを手招きしていたのと同じ顔をしたおばさんが、またそこに立っていたのです。
今度も満面の笑顔で、くいくいとこちらに向けて手招きしています。

「あ、お母さん。」

男の子の声が聞こえました。やばいと思いました。
隣で、男の子が遮断器をくぐろうとする気配がします。
私はとっさに遮断器のバー越しでその子の腕を掴みました。
男の子を引き止めたその直後、目の前を急行電車が勢いよく通り過ぎていきました。
まさに間一髪のタイミングでした。

電車が通り過ぎた時には、もう手招きしていたおばさんの姿は見えなくなっていました。

車を避けるため、呆然としたままの男の子を道の端まで連れて行くと、後ろから慌てた様子の女性が駆け寄ってきました。
それが男の子の母親でした。
彼女は丁度男の子が線路に入ろうとしていた瞬間を後ろから見ていたらしく、引き止めた私に何度もお礼を繰り返します。
ちなみに、女性は見た目20代くらいの若い奥さんで、手招きしていたおばさんとは似ても似つかぬ顔をしていました。

結局、線路の向こう側で手招きをしていたおばさんがどういう存在だったのかはわかりません。
もしかしたらこの踏切で死んだ人の幽霊だったのかも知れませんが、私は二度の遭遇に懲りてその踏切には金輪際近寄らないようにしたので、具体的なことも何も分かりません。

今ではその踏切自体、高架となってなくなってしまいました。

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