恐怖の泉

実話系・怖い話「お化けマンション」

中学生の頃、私の住む地域には「お化けマンション」と呼ばれる建物がありました。
構造上の問題から入居者全員が退去してしまい、その後売り手も見つからないまま長い年月が経過したそうです。
まさに廃墟、そう表現できるほどに朽ちたマンションは、不良や野良猫の溜まり場へと変わっていました。

しかしその建物には、もう1つ秘密がありました。
実は完全に入居者がいなくなる数年前に、ここの一室でとある家族の無理心中があったそうなのです。
それ以来一部の人からはお化けが出るとの声が上がり、それも廃墟化へと拍車を掛けました。
いわゆる心霊スポットとしても、それなりに有名だったわけです。

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中学2年生に上がってすぐ、私はクラスメートからそのお化けマンションへ探検に行かないかと誘われました。
私は率直に不良にも絡まれたくないし、気持ち悪そうだからと断ろうと思ったのですが…当時とても好きだった女の子も一緒に来ると聞いて、簡単に心変わりをしてしまいました。
カッコイイところを見せたいという下心が勝ってしまったのです。

数日後、男子2人に女子3人というメンバーで現場を訪れました。
季節は春の夕方5時、もう日も随分と長くなり十分に明るい時間です。
ですが1歩マンション内へ入ると、驚くくらいの暗闇が私たちを包みました。

ガラスの散乱するエントランス、埃とタバコの臭いが混ざったような空気。たった1歩で別世界に引き込まれたようでした。

4階建てのマンションの、最上階の一番奥の部屋前をゴールと決め、探検を開始。
途中何人かの悪そうなお兄さんやお姉さんがいましたが、軽く茶化される程度で特に問題なかったです。
むしろ不良たちが置いてくれていたランプが、不思議と気持ちを落ち着かせてくれました。
意外と余裕だなというのが、このときの感想です。
好きな女の子も私の袖を掴んでくれていて、恐怖心は次第に薄れていったのを覚えています。

ところが3階へ上がった時、事態は一変しました。
突然一緒に来ていた女の子の1人が、声を上げて泣き出したのです。

「足が動かない」「これ以上行ったら全員帰れなくなる」
と言い出し、とても演技には思えない様子でした。
最初は冗談だと受け止めていた他のメンバーも、そう言われたことで一気に恐怖が湧き上がってきたのでしょう。
共鳴するかのように、気が付くと女子3人は全員泣いていました。

そのときです。
3階の廊下一番手前の部屋から、小さく子どもの泣き声が聞こえてきました。
空耳ではなく、今でも鮮明に覚えています。

この声を聞いたのは私と、私が好きな女の子の2人だけだったようで、後からいくら話しても他のメンバーは泣き声の事は伝わりませんでした。
これ以上はまずいなと感じ、もう1人の男子を説得して結局建物を出ることにしました。

翌日、クラスで1人の欠席者が出ました。
あの一番最初に泣き始めた女の子です。
自宅に帰った後も体調がすぐれず、足首には子どもの小さな手で掴まれたような痣が残っていたそうです。

その様子は担任の教師にも伝わり、私たちは職員室で怒られてしまいました。
反省していますと、その一点張りを貫くしかなかったわけですが、私たちの心は怒られる以前から沈んでいたと思います。
欠席した女の子が再び元気に登校したのは、探検から4日後のことでした。

当初考えていた下心とは裏腹に、あの探検を機に私たちはあまり接点を持たないようになりました。
一緒にいると、当日のことを思い出してしまうからです。
私が好きな女の子も、パニックを起こし学校を休んだ女の子も、頑なにあの日のことは口に出しません。
口に出さないことで、無理にでも忘れようとしていたのかもしれません。

一方でほとぼりが冷めそうな時期になっても、私の中ではあの泣き声が忘れられませんでした。
何か語り掛けてくるような、助けを求めるような声に聞こえたからです。

夢にも何度も出てきました。
顔は見えないですが、幼稚園に通うくらいの子供が泣きながら歩み寄ってくるのです。
そのうち、何か私がしなければいけないのではないかと、使命感を覚えるようにまでなりました。

探検の日から4ヵ月後の夏休み、私は1人であのマンションまで来ていました。
冒頭で触れた一家心中の噂、あれは本当だったのです。
気になって探し回っていたところ、偶然お化けマンションのすぐ近くに長年住むご老人から、実際に伺いました。
その家族が住んでいた部屋までは知らないとのことでしたが、恐らく3階の廊下一番手前の部屋だったのだと思います。

私はこの日、その部屋の前に花を手向けました。
当時の時間で、事件からは15年以上は経過していたそうです。
私が聞いた泣き声が無理心中で亡くなった子供のものなのか、今でも確証はありません。
その代わり1つ言えることとしては、花を手向けて以来泣きじゃくる子供は夢に出ないようになりました。

大人になってからは、何度か同窓会などで一緒に探検をしたメンバーと再会しました。
やはり全員春になると、あの日のことを思い出すそうです。

良くも悪くも、この体験が私たちの心に何かを残しました。
廃墟や心霊スポットは、決して悪ふざけで行くべきところではないのだと思います。
とはいえ心中の話を詳しく聞いてから、一層家族を大事にしたいとも考えるようになりました。
怖かったですが意味もあったのかな、と自分の中では感じています。

心中された家族はどうか安らかに成仏して欲しい。今でもその気持ちでいっぱいです。

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