恐怖の泉

実話系・怖い話「あの世から覗くお爺さん」

私は九州で生まれ育ちました。
就職で私が上京するタイミングに両親は家を建て、とある住宅地へと実家が移りました。

両親は転勤族であったため、新たな土地で新しい人付合いを始める事には慣れていて、その新たな土地でも早速1組の老夫婦と仲良くなっていました。
私が実家に戻ると楽しそうにお付き合いをしているので、何の心配もしていなかったのですが…数年後に帰った時、その老夫婦が相次いで亡くなったという事を聞かされました。

しかし何故か両親はあまり哀しそうにしていなかったので、理由を尋ねると
「老夫婦と同居していた息子夫婦が、私達が財産目当てで老夫婦に近づいている」
と難癖を付けてきたらしく、その件以来疎遠になっていたという事でした。

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それからはあまりその老夫婦を思い出すことは無く、1年、2年と時が経っていきました。
私はお盆と年末年始の半年間隔くらいで実家に帰省していたのですが、段々と家の中の空気が冷たくなっているような気がしていました。

そして5年程経った頃でしょうか。
実家へいる時に洗面所で顔を洗っていて鏡を見ると、右の背後に鬼のような形相でこちらを睨んでいる顔が見えたのです。
ビックリして振り返るも誰もいません。

驚いて洗面所から飛び出し、今あった体験を親に告げると母親が
「私もこの洗面所に立つと後ろが怖いのよ。」
と言いました。
さらには
「この1、2年はお風呂場で転んだり、お父さんが庭の剪定中に脚立から落ちて骨折入院したり…おかしな事ばかり続くのよ。」
と続けました。

実は私は、20年程前からこの世のものではない物が見えるようになりました。
周囲の人間全てが信じられなくなった時期があり、神経が最大限に研ぎ澄まされたからなのか、別の感覚が呼び起こされてしまったようなのです。
常に幽霊が見えているという訳ではなく、自分もしくは幽霊の方が必要な時にだけ、その姿を見る事が出来るのです。

私の母は特に幽霊が見えるというわけではないですが、何かおかしい空気を感じる力はあります。
そしてここ数年は、家の中で何かに触られるような気配を感じていたと言いました。

これはまずい事が起きているのではと思った私は、家の中を調査して回ると洗面所の裏にある階段の壁に「ひょっとこ」のお面が飾ってありました。
両親の趣味に合わないアイテムだな、と気になって親に聞いて見ると、なんと工芸が趣味であった、あの亡くなった近所のお爺さんが作った物だと言うのです。
疎遠になったとはいえ、捨てるのは忍びないので形見と思って飾っていたという事なのですが…私はこのお面に問題があると、妙な確信を感じました。

鏡にうつった顔からは、明らかに怒りの感情が伝わってきていました。
早期に対処しないと悪影響が出ると判断したところ、母の知り合いの娘さん(この女性も霊媒体質なのだとか)がよくお世話になっている除霊師さんがいるらしく、紹介してもらいました。

私は仕事があるため東京へ戻りましたが、母の知り合いが下調べでそのお面を見にきてくださり写真を撮ろうとした所、シャッターを切る事ができなかったそうです。
その後、除霊師さんが来てお祓いをし事無きを得ました。

除霊師さん曰く
「お爺さんが『ひょっとこ』のお面の目の中に隠れて、この世を見張っていた」
のだと言います。

あれだけ仲良くしてくれたのに最後は疎遠になって、そのまま自分は死んでしまったという事実が受け入れられない。
仕舞いには寂しさのあまりにうちの母をあの世に連れて行こうとし、その妨げになる父や私に敵意を顕わにしていたのだそうです。
父は全く霊感のない人なので何も気がつくことはなかったそうですが、私があの時気付いていなければどうなっていたのだろうと、ちょっと恐ろしいです。

あれだけ優しかったお爺さんが鬼の形相で現れるなんて、肉体がなくなってしまうと欲望が剥き出しになり、人間の心が失われてしまうのかな、と思わされる出来事でした。

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