恐怖の泉

実話系・怖い話「恐怖のエスキモー」

これは今から30年ほど前の話です。
私は大阪のとある下町で育ち、周りには子供が多かったので小学校から帰ると毎日遅くまで遊んでいました。

そんなある夏の日。
その日も空はカンカン照りで、みんなで汗びっしょりになりながら遊んでいました。
すると1人の友達が
「おい!変な人がいるぞ!」
と言い出し、視線の先を見てみると、100mくらい先から分厚いダウンジャケットを着用し、頬のこけた色の白い男性が歩いて来ました。

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男性はどんどん私の方に近づいてきましたが、特に何も無くそのまま通り過ぎて行きました。
こんな暑い日に、なんであんな服を着ているんだろう。そして汗一つかいてないだなんておかしいと、友達同士ですっかり盛り上がりました。

私たちはその人の風貌から、アラスカやカナダの民族である「エスキモー」と名付ける事にしました。

エスキモーはたちまち私達の中で話が広がって行き
「あのコートの下にはブラックホールが広がっていて人間が吸い込まれてしまう」
「口から冷凍ガスが出てみんなを凍らせてしまう」
など、どんどん想像話が膨らんでいきました。
エスキモーはその後も頻繁に現れ、子供たちだけでなく大人の中でもちょっとした有名人になっていました。

いつものように近所の子供たちと遊んでいると、またエスキモーが現れました。
やはり分厚いダウンジャケットを身にまとい、目や落ち込んでいて肌の色は真っ白。
改めて間近でよく見てみると、異様な風貌に背筋が凍る思いをしました。

そんな中、1人の友人が「ちょっと後をつけてみようぜ」と言い出し、少し怖かったのですが、エスキモーに気づかれないようにこっそり後をつけることにしました。

距離をとりながら後をつけていると、私たちが通っている小学校の裏側にある大きな屋敷の中に入っていきました。

その屋敷は洋館のような立派な風貌なのですが、ほとんどの窓ガラスが割れており、鉄格子がある部分も錆びきっているなど、とても人が住んでいるような雰囲気はありませんでした。
門から建物の間も雑草が伸びきった状態で外からはあまり見えず、私たち子供たちの間では「お化け屋敷」として有名な建物でした。

お化け屋敷に住んでいるだなんて、やはりエスキモーは只者ではないなと思い、恐怖を感じながらもどこかで少しワクワクしたような感情が芽生えていました。
その後はクラス中が「エスキモーがあの洋館に住んでいる!」と言う話で持ちきりでした。

そんな中、クラスのガキ大将であったA君が
「来週から夏休みだし、夜にあの洋館で肝試しをしようぜ。」
と言い出しました。
私は怖くて行きたくなかったのですが、A君に逆らうと後で何をされるのか分からない為、渋々行く事になりました。

そして肝試しの日。
親にA君の家で宿題をするから遅くなるという嘘をつき、夜の8時に友人5人と洋館に忍び込みました。

入口の草をかき分けて建物の方に進んでいると、苔だらけの不気味な石像や置物などがあり、それだけでも十分な恐怖でした。
玄関まで辿り着きましたが、当然ドアには鍵が掛かっており、どこか入れる所がないか探していました。
すると窓の方から異様な視線を感じました。
目を凝らして見てみると、電気も何も付いていない部屋にエスキモーが立っており、じっとこっちを眺めていました。

私達は慌てて逃げ出し、足がもつれながらも何とか外に出る事が出来ました。
やれやれもう帰ろうと思った時、A君がいない事に気付きました。
もしかしたら自分が言い出しっぺだから逃げずにエスキモーへ向かって行ったのかもと思いつつ、殺されたらどうしようと心配になりました。

それから30分くらい待っていると、A君がゆっくりと歩いて出てきました。

ホッと一安心したと同時に、さすがガキ大将と言われるだけあって凄い勇敢だなと感心しました。
しかし洋館から出てきたA君の表情は虚ろで、話しかけても何の返事のなく、まるで魂が抜けたかのようでした。
それからというもの、A君はまるで人が変わってしまったかのように寡黙な子になってしまい、両親もひどく心配していました。

エスキモーの館に忍び込んでA君がおかしくなった事を知られると、怒られてしまうのではないかと思った私達は、みんなであの夜起きたことは内緒にしようと決めました。

それからというもの、何故かエスキモーの姿を見る事がぱたりと無くなり、あの洋館も急に取り壊しの工事が入っていました。
A君一家も知らない間に引っ越ししており、学校の先生に理由や場所を聞いても
「事情があって教えられない。仲が良かったのは分かるけどごめんな。」
の一点張りで、教えてもらえませんでした。

あの夜、A君とエスキモーの間に何が起きたのか?
30年経った今でも謎のままですが、A君の引越し、洋館の取り壊し、そしてエスキモーが消えた事は、偶然ではなく関係があると思っています。

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